病原体等実験施設規制法令等試案

 

1.法規制の考え方

 

@ 病原体等は人の生命、健康を害し、生態系を破壊する危険性があるものとして危険物として扱われなければならない。したがって、まず、病原体等は放射性物質や有害化学物質と同様の危険物として法的な管理規制(届出制・許可制、取扱、利用、保管)のもとに置かれることを要求される。

 

A 病原体等を取り扱う施設には潜在的な危険性があり、一旦漏出や感染が生じた場合、周辺地域に対して回復が極めて困難な甚大な被害を招来する危険性を持つ。

  従って、バイオハザードは病原体等を扱っている実験者の世界だけの問題ではなく、実験施設周辺の市民社会にとっても十分考慮されるべきものである。

 

B バイオハザードの特性から、リスクの定量的な把握は困難であり、それ故、バイオハザード対策として、人格権の尊重の上に立ち、現代の最新の科学的知見と万全の施策を講じてリスクをゼロにするための予防策を基本としなければならない。

 

C 過去の公害の教訓から学ぶこと。

 @)政府・行政と事業者、市民の3元的世界を構築する(市民自治の形成)。

そのために、バイオ施設の安全管理の実態については、「人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報」として地域住民を始めとする国民一般に広く情報公開され、対話による説明責任が事業者によって果たされるとともに、市民の目による監視機能(「市民自治」の形成)とともに市民が意思決定にも関与する。

 A)政府組織において、事業の推進や管理を任務とする機関と完全に分離してリスク評

価を行う組織を設ける。

B)WHOの諸規定を最低基準として位置づけ、諸外国の先進的な事例に学ぶ。

 

2.病原体等実験施設規制法試案

 

 前項の考え方に基づき、当センターが作成した第一次試案(「教えて!バイオハザード」、バイオハザード予防市民センター、緑風出版、035月、182頁〜186頁)の改定試案を作成したので、以下に示す。


病原体等実験施設規制法試案

 

目次

 前文

 第1章 総則(第1条〜第8条)

 第2章 バイオハザード防止委員会(第9条〜第23条)

 第3章 病原体等実験施設の設置に係る施策等(第24条〜第28条)

 第4章 病原体等実験及び管理に係る施策等(第29条〜第38条)

 第5章 情報公開と対話(第39条・第40条)

 第6章 措置の実施に関する基本的事項の決定と公表(第41条)

 第7章 罰則(第42〜第45条)

 

 

(前文)新興・再興病原体の出現に伴う病原体実験及び研究の進展は、実験施設で取り扱っている病原体その他の危険物質の漏出による人の生命、健康に対する危害と環境への有害な影響の可能性を増大させている。本法は、この危害と有害な影響の発生を未然に防止し、人の安全と環境の保全を確保するため、病原体等実験施設の規制の基本を定めるものである。

 

1章 総則

1条(目的)

  この法律は、病原体等実験施設の安全性の確保に関し、基本理念を定め、並びに中央政府、地方公共団体及び事業者の責務及び国民の権利を明らかにするとともに、これらの施設の設置・運営並びに病原体等の管理に関する規制の基本を定め、病原体等の人の生命、健康に対する危害と環境への有害な影響を未然に防止することを目的とする。

 

第2条(定義)

  この法律に掲げる用語の定義は以下による。

 1 病原体等―以下の4種類に分けられる生物物質

1)ウィルス(インフルエンザウィルス、肝炎ウィルス、SARSウィルス等)、細菌(赤痢菌、結核菌、炭疽菌等)菌類(かび類:アスペルギルス、クリプトコックス、ヒストプラズマ等)およびそれらの遺伝子改変体、ならびに異常プリオン(CJDプリオン、BSEプリオン等)

2)原虫(プラスモディウム(マラリア原虫)、トリパノゾーマ、赤痢アメーバ、ジアルジア等)およびそれらの遺伝子改変体

3)内部寄生虫(蠕虫類)

      4)裸のDNA(生きた細胞または死んだ細胞から取り出されたか排出されたDNA分子そのもの)

2 病原体等実験―病原体等を取扱う実験

3 病原体等実験施設―病原体等を実験で取扱う施設

4 事業者―病原体等実験施設の設置者

5 BSL(バイオセーフティレべル)1BSL 2BSL 3BSL 4―取扱う病原体等の危険度に応じた実験室の安全対策の度合による各等級

 

第3条(基本理念)

  病原体等実験施設の安全性の確保は、このために必要な措置が生命の安全と健康の保護など人格権の尊重が最も重要であるという基本的認識の下に、行われなければならない。

2 病原体等実験施設から、ひとたび病原体等が外部に流出する事態が発生した場合、条件如何によっては、被害の回復が極めて困難で甚大な被害を招来する可能性があることに鑑み、人の生命、健康、環境に対する危害と環境への有害な影響を未然に防止すること、すなわち「予防原則」を最優先せねばならない。

3 病原体等実験施設の安全性の確保は、このために必要な措置がWHOなどの国際的動向を尊重し、及び国民の意見に十分配慮した上で科学的知見に基づいて講じられなければならない。この場合、国民への情報の提供、説明責任は果たされなければならない。

 

4条(中央政府の責務)

  中央政府は、第3条に定める基本理念に則り、病原体等実験施設の安全性の確保に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 

5条(地方公共団体の責務)

  地方公共団体は、基本理念に則り、病原体等実験施設の安全性の確保に関し、中央政府との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 

6条(事業者の責務)

  事業者は、その事業活動を行うに当たって、基本理念に則り、自らが病原体等の取り扱い及び実験施設の安全性確保について第一義的責任を有していることを認識して、必要な措置を適正に講ずるとともに、中央政府又は地方自治体が実施する施策に協力する責務を有する。

2 前項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、病原体等の取り扱い及び実験施設の安全性確保に関する正確かつ適切な情報を中央政府、地方自治体に提供し、説明責任を果たす責務を有する。 

 

7条(国民の権利)

  国民は、病原体等実験施設の安全性の確保に関する情報を享受する権利と、それらの施策策定に関与する権利を有する。

 

8条(法制上の措置等)

  中央政府は、病原体等実験施設の安全性確保に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 

第2章 バイオハザード防止委員会

 

第9条(設置)

  内閣府に、バイオハザード防止委員会(以下、「委員会」という。)を置く。

 

第10条(所掌事務)

 委員会は、病原体等の実験施設の設置、運営における安全性を審査し、点検、確保することを任務とし、次に掲げる事項について事務を司る。

 一 病原体等実験施設の安全性確保のための規制に関すること。

 二 第25条による病原体等実験施設の設置許可申請の審査事務

 三 第31条による病原体等実験の実施申請の審査事務

 四 病原体等実験施設の管理運営状況の調査

 五 前号に基づく、勧告、改善命令などの発布

 

第11条(資料の提出等の要求)

 委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

 

第12条(立入調査権)

  委員会またはその代理人は、病原体等実験施設、病原体等実験及びその他の関連事業における安全性を確保するため、予告なしに施設の立ち入り検査をし、質問を行い、関係書類その他の資料の提出を事業者に命じることができる。

 

第13条(業務停止・改善命令、施設閉鎖命令)

  委員会は、安全基準及び安全確保の指針に反する病原体等実験施設の事業者に対しては、業務を停止し、相当な期間を定めその改善を行うよう関係大臣を通じて命じることができる。

  委員会は、前項の命令を履行しない施設については、事業者にその施設の閉鎖を命じるものとする。閉鎖命令に違反した事業者にもその施設の閉鎖を命じるものとする。

 

第14条(調査の委託)

 委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めたときは、独立行政法人、民法第34条の規定により設立された法人、事業者その他の民間の団体、都道府県の試験研究機関又は学識経験を有する者に対し、必要な調査を委託することができる。

 

第15条(組織)

  委員会は、委員15人をもって組織する。

  内、10名は専門家委員、5名は公募による市民委員とする。

 

第16条(委員の任命)

 委員は、病原体等実験施設の安全性確保に識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。

2 委員の任期が満了し、又は欠員が生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員を任命することができる。

3 前項の場合において、任命後最初の国会で両議院の事後の承認を得なければならない。

この場合において、両議院の事後の承認が得られないときは、内閣総理大臣は、直ちにその委員を罷免しなければならない。

 

第17条(委員の任期)

 委員の任期は、3年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

2 委員は、再任されることができる。

3 委員の任期が満了したときは、当該委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。

 

第18条(委員の罷免)

 内閣総理大臣は、委員が心身の故障のため職務の執行ができないと認める場合又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認める場合においては、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。

 

第19条(委員の服務)

  委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。

 

第20条(委員長)

 委員会に委員長を置き、委員の互選によってこれを定める。

2 委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。

3 委員長に故障あるときは、あらかじめその指名する委員が、その職務を代理する。

 

第21条(会議)

  委員会は、委員長が召集する。

2 委員会は、委員長及び10人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決することができない。

3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。

 

第22条(事務局)

  委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。

2 事務局に、事務局長のほか、所要の職員を置く。

3 事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。

 

第23条(政令への委任)

 この章に規定するもののほか、委員会に関し必要な事項は、政令で定める。

 

第3章 病原体等実験施設の設置に係る施策等

 

第24条(環境に及ぼす影響への配慮)

BSL2以上の実験室を有する病原体等実験施設は、病原体等の漏出事故による被害を避けるために、住宅地及び一般住民の生活圏から十分に離れた場所に設置しなければならない。

2 事業者は、BSL2以上の病原体等実験施設を設置しようとする場合、事前に実験業務が周辺に及ぼす環境影響評価を行い、環境影響評価書を作成しなければならない。

 

第25条(施設設置の申請)

  事業者は、病原体等実験施設を設置しようとする時は、次の事項を記載した申請書を関係大臣に提出しなければならない。

 一 氏名及び住所

 二 取り扱う病原体等の特性

 三 拡散防止措置

 四 安全管理規程

 五 前4号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

2 前号に規定するもののほか、申請について必要な事項は、主務省令で定める。

 

第26条(公聴会の開催)

BSL2以上の病原体等実験施設の設置に際しては、委員会は当該施設の設置に関して国民の意見を聴取するために公聴会を開かねばならない。

 

第27条(近隣住民の同意)

  事業者は、BSL2以上の病原体等実験施設を設置しようとする時は、事前に近隣住民の同意を得なければならない。

 

第28条(病原体等実験施設の設置の許可)

  第25条による申請があった場合には、関係大臣は委員会に審査事務を諮問し、その審査結果を尊重しなければならない。関係大臣は、委員会の審査により、安全基準を満たしていることが確認され、第27条に規定する住民の同意が得られた場合にのみ、これを許可する。申請の許可、不許可を事業者に書面で通知するものとする。

 

第4章 病原体等実験及び病原体等の管理に係る施策等

 

第29条(病原体等の危険度分類)

  委員会は、病原体等の危険度分類を以下のように定める。

危険群1−ヒトに病気を引き起こす可能性がない。

 危険群2−ヒトに病気を引き起こす可能性があり、従業員に対する危険物質であるかもしれない。地域社会に伝播する可能性はなく、通常は効果的な予防法または治療法がある。

 危険群3−ヒトに重篤な病気を引き起こす可能性があり、従業員に対する重大な危険物質であるかもしれない。地域社会に伝播するかもしれないが、通常は効果的な予防法または治療法がある。

 危険群4−ヒトに重篤な病気を引き起こし、従業員に対する重大な危険物質である。

      地域社会に伝播する可能性があり、通常は効果的な予防法も治療法もない。

 

第30条(主務省令で定める拡散防止措置の実施)

  病原体等の危険群に応じて、それらを使用する実験はそれぞれBSL1,BSL2,BSL3,BSL4の実験室または実験施設で行うものとし、主務省令で定められている拡散防止措置を執らなければならない。

 

第31条(病原体等実験の届出および許可の申請)

  事業者は、BSL1及びBSL2の等級の実験の実施については、実験開始予定日の20日以上前に次の事項を記載した書面により、関係大臣に届出をしなければならない。BSL3及びBSL4の等級の実験の実施については、実験開始予定日の60日以上前に次の事項を記載した書面により、関係大臣に申請をし、その許可を受けなければならない。

 一 氏名及び住所

 二 取り扱う病原体等の種類と特性

 三 リスクアセスメントと拡散防止措置

 四 モニタリング計画

 五 前4号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

2 前号に規定するもののほか、申請について必要な事項は、主務省令で定める。

 

第32条(病原体等実験の許可)

  前条による申請があった場合には、関係大臣は委員会の審査により、その計画が安全確保の指針の定める要件を満たしていることが証明された場合にのみ、これを許可する。

  委員会の審査は、実験開始予定日までに終了するよう努めるものとする。

  関係大臣は、申請の許可、不許可を申請者に書面で通知する。

 

第33条(病原体等の管理)

  事業者は、病原体等実験の実施にあたっては許可要件に従い、病原体が施設外に漏出することのないようにこれを管理しなければならない。

 

第34条(病原体等の供与)

  事業者が病原体等を施設外の者に供与するさいは、委員会の許可を受けるものとする。病原体等の輸出入に際しても、同様とする。

 

第35条(リスクアセスメントの実施)

  事業者は、使用する病原体等のリスクアセスメントを実施し、それに基づいて適切な漏出予防策を実施しなければならない。

 

第36条(モニタリングの実施)

  事業者は、病原体等が施設外への流出の有無を確認するために、モニタリングを実施し、必要な漏出防止策を実施しなければならない。

 

第37条(事故・災害の報告義務)

  事業者は、感染事故または火災、システム異常が発生したときには、直ちに関係大臣と所在する地方自治体に報告しなければならない。

 

第38条(事業者の無過失責任)

事業者により、他人の生命、健康を害するか、環境を汚染・破壊した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

破壊した環境は、これを修復しなければならない。

 

第5章 情報公開と対話

 

第39条(届出情報の公開) 

 事業者が関係大臣に届け出た事項は国民に公開することができる。

 関係各大臣は病原体等実験施設の届出書に基づいて登録簿を作成し、これを国民に公開しなければならない。

 

第40条(対話の促進)

  病原体等施設の安全性の確保に関する施策の策定にあたっては、当該施策の策定に国民の意見を反映し、並びにその過程の公正性及び透明性を確保するため、当該施策に関する情報の提供、当該施策について意見を述べる機会の付与その他関係者相互間の情報及び意見の交換の促進を図るために必要な措置が講じられなければならない。

 

 第6章 措置の実施に関する基本的事項の決定及び公表

 

第41条

  中央政府は、第24条から前条までの規定により講じられる措置につき、それらの実施に関する基本的事項(以下「基本的事項」という。)を委員会の意見を聴いて、定めなければならない。

2 内閣総理大臣は、基本的事項を定めた場合、遅滞なくその内容を公表しなければならない。

3 前2項の規定は、基本的事項の変更について準用する。

 

章 罰則

 

42

  第28条の許可なく病原体等実験施設を設置した者は、3年以下の懲役もしくは禁固、又は1000万円以下の罰金に処し、もしくはこれを併料する。

 

第43条

  第32条の許可なく病原体実験をした者は、3年以下の懲役もしくは禁固、又は500万円以下の罰金に処し、もしくはこれを併料する。

  病原体の管理に関し、第33条の規定に違反した者も、同様とする。

 

第44条

  第12条に違反して立ち入り検査を拒み、妨げ、質問に回答せず、関係書類その他の資料の提出命令に応じない者は、5年以下の懲役もしくは禁固、又は500万円以下の罰金に処し、もしくはこれを併料する。第13条の閉鎖命令に違反した者も同様とする。

 

第45条

 故意又は過失によって病原体実験に起因して他人の生命、健康を害するか、環境を汚染・破壊した者は、10年以下の懲役もしくは禁固、又は3000万円以下の罰金に処し、もしくはこれを併料する。

 

 

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