731部隊の犯罪を反省せぬ感染研


バイオハザードを予防する市民的な監視が必要


(当センター代表、国立感染症研究所名誉所員 本庄重男)



 近頃、陰惨なニュースが続いている。米国のブッシュ大統領は正義を装って強引な戦争行為の必要性・正当性を主張し、我が国の小泉首相はブッシュに追随してヒットラー張りの言動に酔いしれている。彼らの猛々しいトーンは高まるばかりである。物事を深く考えない人々は、そのトーンに煽られ、戦争推進政策に対し、一片の疑念を抱くこともなく、「正義の戦争」支持の大合唱に和している。残念ながら、憲法第9条を守り国際紛争を平和主義の原則で解決することを願う人々の声は、まだ力不足で黙殺されている。

 このような情況下、炭疽菌による「バイオハザード」が米国で発生した。その元凶や意図は不明のままに「バイオテロ」という言葉が広められた。そして、米国内ではイスラム系の人々に対する差別や虐待などの人権侵害、さらには反戦・平和運動に対する干渉・弾圧さえ発生しているという。実に恐るべき時代の到来ではないか。

 かねてから核・生物・化学兵器(NBC兵器)戦争対応策を強化する歩みをしていた米国政府(国防総省)は、1999年春、日本政府(防衛庁)に対しNBC兵器戦争とバイオテロへの対応策を日米共同作戦の一環として共同策定することを要求した。日本政府は直ちにこれに呼応し、2000年度防衛関係予算に20数億円の関連費を盛り込むとともに、防衛庁長官及び関係省庁の専門官僚たちによる「生物兵器への対処に関する懇談会」を組織した。ところで驚くべきことに、この懇談会の副座長は倉田毅感染研副所長であり委員のなかには渡邉治雄感染研細菌部長がいる。

 このことの意味することは深刻かつ重大である。かつて感染研(予研)では、軍事的共同研究は密かにしか行えなかった。それは平和的研究に努める研究者たちの批判と抵抗が多かれ少なかれあったからだ。しかし、今や、所内の批判勢力は声を潜めており、バイオテロ対策を標榜する国策の一環として自衛隊との軍事共同作業を公然と行えるようになったのである。

 第2次大戦後、米軍を中心とする進駐軍司令部(GHQ)の指令により東大伝染病研究所から分離・創設された予研では、731部隊に関係のある医学者たちが要職を占めていたことは否定しがたい史実である。その流れの中で米軍の406部隊(BC兵器開発関連部隊)からの研究資金等を受けて研究をしているグループが予研内に存在していたことも確かである。また、米軍が第2次大戦後大掛かりなBC兵器開発計画を進めていたこと、および、その過程で731部隊の実績や関係者を利用したことは、既に多くの文献や書物により明らかにされている(例えば、エド・レジス著/柴田京子訳/山内一也監修『悪魔の生物学』河出書房新社、2001年7月刊を参照)。このような歴史的事実を踏まえて今日の感染研の姿を見ると、「先輩たちの731部隊への協力について深く反省せぬままに、再び恥知らずな軍事協力の道を歩み始めた」との思いを抱かざるを得ない。

 感染研は旧陸軍軍医学校の跡地に立地する。そこは、731部隊を中心にした細菌兵器研究と細菌戦争計画推進の中枢であった。今日、感染研内に巣食っていた731部隊の亡霊が蘇り、倉田らはせき立てられて軍事協力の歩みを公然と開始し、平和な市民生活を今まで以上に脅かすこととなった。我が国におけるバイオテロ対策はこの情況を無視して考究するわけにはいかない。

 私たち市民は、バイオテロやNBC兵器を絶対許さない。今後それらへの対処を市民的立場で考案していく必要がある。しかし、過去の歴史を考えると、今の感染研にその対処を委ねるわけにはいかない。同時に、感染研裁判で原告側が詳しく論じてきたことであるが、感染研の日常業務において発生する恐れのある「バイオハザード」を予防するための市民的監視を一層強めねばならないと考える。

 

(2001年11月12日、「予研=感染研再移転要求ニュース第54号」より)



戻る