■国立衛生研の安全性は確認できたと言えるだろうか?             

新井秀雄(代表幹事)

 

 国立医薬品食品衛生研究所(以下、衛生研と略)が府中へ移転を計画するにあたり、そのバイオ部門の食品衛生管理部第1室の安全性の確認を第3者機関の公益法人日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board。以下、JABと略)に認定申請(2009423日)し、実施された審査の最終報告書(20091228日発行)が府中市へ出された。この報告書により、市議会において、衛生研の安全が確認されたとの議論が出たとのことである。この審査最終報告書の内容に関する検討会が、「衛生研問題を考える会」により2010117日夜、府中で開かれたので、簡単に報告する。

 日本適合性認定協会は企業の適格性を審査認定する民間の組織であるが、国公立のバイオ関連施設に対して審査認定した例を筆者は他に知らない。おそらく今回がはじめての例であろう。この協会のホームページを見ると微生物の専門審査員は3人となっているが、その氏名は公表されていない。また今回の衛生研に対する審査最終報告書の3人の審査員の氏名は黒く塗りつぶされている。

 協会の審査認定の目的は、「BSL3試験室の安全性及び試験される細菌の取り扱いの安全性確保」であるとして、「当研究所が郊外に移転する際に、移転先の自治体から第三者による審査が必要とのことで、JABに認定を求めてきた」という。そこで、「JABとしては設備の安全性は、設備そのものの安全性及び試験能力を通じて初めて証明されるとして、BSL3施設の使用が定められているSalmonella Typhi(誤植のまま)の試験を通して、ISO/IEC 17025の必要な全ての要求事項に適合していることを要求した」とのことである。 実際に衛生研が有するBSL3施設で2つの試料についてチフス菌を培養し、生化学的性状試験、血清鑑別試験による確認試験を行い、この間の初回認定審査のための予備訪問、書類審査及び現地審査を認定基準等に基づいて実施したという。このことからはっきりしているのは、この認定作業は衛生研との共同作業であり、抜き打ち検査的な判定ではないことである。このことは、最終報告書に明記されているように、主としてソフト面で基準に適合していない点が多数指摘され、それによって衛生研が急遽是正せざるを得なかった。とくに管理責任体制や、実験過程の記録方法や監視体制に欠陥があること、さらには施設内での落下細菌検査が実行されていなかったこと等が指摘されている。

 これまで衛生研は、BSL3施設は存在するがBSL3施設としての使用はしていないと言ってきた。

該当する菌の保管と取り扱い実験は国立感染研にて行っているとのことであったが、今回の審査によって、期せずして衛生研自体内においてはBSL3施設での安全な実験体制が確立していなかったことが明確となったわけである。慌てて是正を図り、最終的にはJABの審査に適合した報告書の形なっているが、審査のための是正であって、経常的にその状態が維持される保障はない。なにしろ、この審査のための施設利用であって、審査が終わった段階で元の無使用の状態に戻ったはずである。なぜなら、いま緊急に衛生研のBSL3施設を使用稼動させるような客観的な必要性があるわけではないからである。

 この審査最終報告書を読んでみて、いくつか気づいた点を挙げる。1つは、JABの今回の審査内容は、BSL3施設内での病原菌取り扱いをめぐる安全性ということである。すなわち、実験室内部の安全性確保の審査であって、施設外部へのバイオハザードの試驗審査を行ったものではない。例えば、今回の審査試験中に、いかほどの量のチフス菌がヘパフィルターを通して外部へ漏出したかの検査試験は全く実施されていないし、それを検討する企画すらなされていない。2つ目は、1と関連するが最終報告書に挙げられているWHOの「実験室バイオセーフティ指針第3版(2004)」の考え方に対して、これまで当会バイオ市民センターが問題視し感染研へ抗議してきた「病原体等取扱者」に対する高リスク、「関連者」に対する低リスクという概念を無批判に流用している点である。この点からだけでも、このJABの審査報告書が国際的な基準に則って審査されたものかどうか甚だ疑わしい。このバイオハザードの重大な概念に関して、感染研という国際的に偏った見解を無理押しする機関の悪影響があり、今回の審査報告書が国際的に通用するかどうか甚だ疑問である。3つ目は、現在のバイオ施設で広範に行われている遺伝子組換え実験に対する検討審査が皆無である点である。現在の衛生研では遺伝子組換え実験が精力的に実施されていることは疑い得ない。将来的にはBSL3施設内での組換え実験が行われることも強く懸念される。にもかかわらず、その審査が成されていないのは、JABのバイオ審査項目(内容)に限界があるとしか考えられない。最後に、バイオ実験の安全性の確保は、今回の施設内の安全性に限っても、その継続保持がどのようにして検証されるのか、その具体的な検証方法が最終報告書には一切触れていない点が問題である。したがって、バイオハザードの直接的被害者となる周辺住民サイドおよび第3者による定期的な立ち入り検査と実験停止を命じる権限が不可欠となる。

(文中の「 」書きは、今回のJAB審査最終報告書からの引用である)

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