世界のバイオ規制法(2)

遺伝子組み替え微生物の閉鎖系使用に関するEC理事会指令(1998)

長島 功



[前文]
(1)同条約の意味の範囲内で、環境に関連してとる共同体の行動は、環境の保存、保護及び改善ならびに人間の健康の保護を目的として予防的行動がとられるべきであるという原則に基づかなければならない。
(2)遺伝子組み換え微生物(GMMs)の閉鎖系使用は人間の健康と環境に対する微生物の危険度に従って分類されなければならない。また、このような分類は国際的な慣行に一致し、危険度の評価に基づかなければならない。
(3)高い水準の保護を確保するためには、閉鎖系使用に適用される封じ込めや他の保護的対策は閉鎖系使用の分類に相応するものでなければならない。また、微生物の危険度が不確かな場合には、適切なデータが得られることによりレベルの低い対策がふさわしいとされるまでは、適切な封じ込めや他のより高い分類に属する保護的対策が講じられなければならない。
(5)地域住民全般と環境との接触を制限するための特殊な封じ込め設備を適切に用意することなく処理されるGMMsはこの指令の範囲外に属する。これには「遺伝子組換え生物の環境への意図的な放出についての1990年のEECの理事会指令」のような共同体の他の法律が適用される。
(13)バイオテクノロジーの進歩、発展させるべき基準の性質及びこの(微生物のー編者注)リストの限られた範囲を考慮すると、欧州委員会がこれらの基準を定め、改訂することが適切である。
(14)今ではGMMsの閉鎖系使用に関連して生じる危険についての経験と知識はかなりある。
(15)それゆえ、以上の理由に従い「EEC指令90/219」は改正されなければならない。 以上のことを考慮して、次の指令を採択した。

[本文]
第1条 この指令は人間の健康と環境を保護するために遺伝子組換え微生物の閉鎖系使用に対する共通の対策を定める。                           
第5条  
1 構成国は、GMMsの閉鎖系使用から生じるかもしれない人間の健康と環境への有害な影響を避けるために必ずあらゆる適切な対策を講じるようにしなければならない。
2. この目的のために使用者は附則VのAとBにおいて提示された評価と手順を最小限用いることによって、これらの閉鎖系使用が引き起こすかもしれない人間の健康と環境への危険の度合いに応じて閉鎖系使用の評価を行わなければならない。
3. 上記の第2節で言及された評価の結果、閉鎖系使用は4つの段階へ分類される。これは附則Vで提示された手順に適用され、この結果として、第6条に従った封じ込めレベルの分類が行われる。
1類 : 危険が全く無いかまたは無視できる程度の活動、すなわち、人間の健康ならびに環境を守るためにはレベル1の封じ込めが適切である活動。
2類 : 危険度の低い活動、すなわち、人間の健康ならびに環境を守るためにはレベル2の封じ込めが適切である活動。
3類 : 中程度の危険を有する活動、すなわち、人間の健康ならびに環境を守るためにはレベル3の封じ込めが適切である活動。
4類 : 危険度の高い活動、すなわち、人間の健康ならびに環境を守るためにはレベル4の封じ込めが適切である活動。                                                            
5. 本条項の第2節で言及された評価は特に廃棄物と排水の処理の問題を考慮に入れなければならない。必要があれば、人間の健康と環境を守るために必要な安全対策が実施されなければならない。
6. 本条項の第2節で言及された評価の記録が使用者によって行われ、その記録は第7条、第9条及び10条に従った届出書の一部とするか、あるいは請求があり次第適切な記入様式で所管当局が利用し得るものにしなければならない。
第7条 施設がはじめて閉鎖系使用に使用される予定である場合には、使用者は、このような使用を開始する前に、少なくとも附則XのAで列挙された情報を含む届出書を所管当局に提出する必要がある。
第9条 
1. はじめての2類の閉鎖系使用と継続的な2類の閉鎖系使用を第7条に従って届出された施設で行うためには、附則XのBで列挙された情報を含む届出書を提出しなければならない。
  しかし、申請者は、自ら正式な認可の決定を所管当局に求めることができる。決定は届出の日から最長で45日以内に行わなければならない。
第10条   
1. はじめてのの3類の閉鎖系使用と継続的な3類の閉鎖系使用を第7条に従って届出された施設で行うためには、附則XのCで列挙された情報を含む届出書を提出しなければならない。
2. 3類かまたはそれより高いレベルの閉鎖系使用は所管当局の事前の同意がなければ始めることはできない。
第11条 
1. 各構成国はこの指令の適用に際して採用する対策を実施し、第7条、第9条及び第10条で言及された届出書を受理し、承認する権限のある所管当局を一つまたはそれ以上設置しなければならない。
2. 所管当局は、届出書が本指令の示す必要条件に合致しているかどうか、提示された情報の正確さと完全性及び閉鎖系使用のレベル、また必要な場合には、封じ込めと他の保護的対策の適合性、廃棄物管理及び緊急事態に対応する対策を調査しなければならない。
  3. 必要ならば、所管当局は、
(a)使用者にさらに情報を提供すること、提案された閉鎖系使用の条件を変更すること、または閉鎖系使用に割り当てられた封じ込めレベルを変えることを求めることができる。この場合、所管当局は、それが得た追加情報と閉鎖系使用の変更された条件に基づいて承認するまで、提案された閉鎖系使用は開始しないこと、進行中の閉鎖系使用は停止または終止することを要求できる。
 もしその結果として閉鎖系使用によって引き起こされる危険にとって重大な結果をもたらす可能性のある情報を所管当局が入手するようになれば、所管当局は使用者にその閉鎖系使用の条件の変更、閉鎖系使用の停止または終止を要求することができる。 第13条 構成国は、適当と考える場合には、第19条の効力を失うことなく、提案された閉鎖系使用の諸側面について公衆と協議すべきであると規定することができる。 第14条 所管当局は閉鎖系使用が始まる前に、以下のことを行うことを保証しなければならない。
(a)封じ込め対策の失敗が、直ちにであれ遅れてであれ、施設の外部の人間または環境及びその両方に重大な危険をもたらす可能性がある場合には、閉鎖系使用のための緊急事故対策計画を作成させるようにすること。ただし、このような緊急事故対策計画がヨーロッパ共同体の他の法律の下ですでに作成されている場合はその限りではない。
(b)講じられるべき適正な安全対策を含むこのような緊急事故対策計画についての情報が適切な仕方で、かつまた、求められなくても、事故の影響を受けやすい団体や当局に提供されるようにすること。この情報は適当な間隔をおいて最新のものにしなければならない。それはまた公衆が利用できるようにしなければならない。
第15条 
1. 使用者は、事故が起きたときに、第11条で規定された所管当局に直ちに知らせ、以下の情報を必ず提供する必要があるが、構成国は、このことが必ず行われるようにするために必要な対策を講じなければならない。
―事故の状況
―漏出したGMMsの実体と量
―地域住民全般の健康と環境への事故の影響を評価するのに必要な全ての情報
―講じられた対策
第17条 構成国は所管当局をしてバイオ施設が本指令に従うよう、査察、その他の監督を行わせなければならない。
第18条 関連する事項についての一般的な統計的情報を公表することができる。ただし、それはこの情報が使用者の競争上の地位を損なう可能性がない情報を含む限りにおいてである。
第19条
1. 一般的な統計的情報の公開が環境についての情報の利用の自由に関する1990年6月7日のEEC理事会指令90/313 第3条第2節で言及された一つまたはそれ以上の項目に影響を与える場合には、届出者は、本指令に従って提出された届出書の中にあり、極秘として扱われるべき情報を指示することができる。このような場合には、その正当性を証明できるものがなければならない。
2. 所管当局は、届出者との相談の後、どの情報が極秘にされるかを決定し、その決定を届出者に知らせなければならない。
3. 届出書が第7条、第9条及び第10条に従って提出された場合には、以下の情報はいかなる場合にも極秘にできない。
―GMMsの一般的な特性、届出者の名前と住所、閉鎖系使用の位置
―閉鎖系使用と封じ込め対策のレベル
―予見できる影響、特に人間の健康と環境への全ての有害な影響の評価
4. 欧州委員会と所管当局は第2節に従って極秘にすべきと決定された情報及び本指令に従って届出または提供された情報はいかなるものも第3者に漏らしてはならず、受け取ったデータに関連する知的所有権を保護しなければならない。
5. いかなる理由であれ、届出者が届出書の提出を取りやめた場合には、所管当局は提供された情報を秘密にしなければならない。
「改正された指令」の第2条
1. 構成国は本指令の発効期日の遅くとも18ヶ月以内に本指令を遵守するために必要な法律、規則及び行政が定める諸条項を施行しなければならない。

附則
W 一般的原則
(6)必要があれば、生物学的安全性委員会または小委員会を設置すべきである。
表TA 実験室の活動のための封じ込めと他の保護的対策
実験室の隔離(注)
P1/必要なし P2/必要なし P3/どちらでも可 P4/必要
(注)(隔離とは、実験室が同一の建物内で他の区域から分離されているか、または実験施設として分離した建物内にあるかのどちらかである。)
表TC 動物施設での活動のための封じ込めと他の保護的対策
 動物実験施設の隔離
P1/どちらでも可 P2/必要 P3/必要 P4/必要
XのC 第10条で言及された届出のために必要な情報(P3・P4施設が対象)
(a) ―第7条で言及された届出書の提出期日
―監督と安全に責任のある人の名前と研修と資格についての情報
(b) ―使用される受容体の微生物または分裂前の微生物
―使用される宿主―ベクター系(適用可能な場合)
  ―組み換えに関わる遺伝子素材の源泉と意図された機能
―GMM(遺伝子組み替え微生物)の実体と特性
  ―使用される培養量
(c) ―適用される封じ込め対策と他の保護的対策についての記述。そのなかには、発生する廃棄物の種類と形態、その処理、その最終形態と最終的な行き先を含む廃棄物管理についての情報が含まれる。
  ―期待される結果を含む閉鎖系使用の目的
  ―施設の各部分についての記述
(d)事故の予防と(事故が起きた場合の)緊急事態対策計画についての情報
―施設の位置から生じる全ての特有のハザード 
  ―安全対策用の設備、警報システム及び封じ込めの方法のような適用される予防対策
  ―封じ込め対策の持続的効果を証明するための手順と計画
  ―実験者に提供する情報についての記述
  ―第14条で規定された必要とされる場合の緊急事態対策計画を所管当局が評価するために必要な情報
(e)第5条第2節で言及された評価を記した冊子

以上に紹介したEC理事会の指令においては次の点が積極的に評価すべきである。 
1 「物理的封じ込め施設」が人間の健康ならびに環境に影響を及ぼすという立場を首尾一貫させ、その立場から多面的な事前の対策を講ずるべきであるとしている。 
2 当然、そのような施設の事前の環境影響評価、事前の危険の評価が不可欠であるという原則が主張されている。 
3 遺伝子組み換え微生物の閉鎖系使用を始める前に事業者は必要な情報を含む届出書を所管当局に提出しなければならない。
4 事故が発生する蓋然性が大きいという原則が重視され、それへの対応、緊急対策の必要が強調されている。 
5 したがって、当然のことであるが、情報公開、住民・公衆らの事前の合意の形成の必要が強調されている。最低限、これらが病原体・遺伝子組み換え微生物を扱う「物理的封じ込め施設」の設置の前提条件なのである。                    
6 所管当局に実験施設の査察の権限を認めている。
7 P2〜P4レベルまでの閉鎖系使用は、当局に届出をし、さらに認可を受けなければ実験を開始できない。さらに、P3,P4レベルの閉鎖系使用は当局の事前の同意がなければ実験を開始できない。
8 使用者が当局に提出した届出書に含まれる情報は原則として公開されるべきで、使用者が秘密にできる情報は使用者自身では決められず、当局が決めるものとされている。

                       また、本指令の不十分と思われる点は以下のとおりである。
1 第1条で指令の目的が人間の健康と環境を保護することと規定し、さらに前文の(5)では「地域住民全般と環境との接触を制限するための特殊な封じ込め設備を適切に用意すること」と記しているにもかかわらず、人間の健康と環境の保護のために必要なことは、閉鎖系使用に対する封じ込めやその他の保護的対策並びに事故の際の緊急事態対策計画の策定等に留まり、実験施設を住宅地から離れたところに立地させるということを明確に規定していないこと。たしかに、XのCの(d)の項目では施設の位置から特有のハザードが生ずることを認めている。それならば、施設の地理的な位置に関する規定があってしかるべきである。
2 火災や地震などの災害による感染事故が想定されていない。そのため、それに対する対策の内容と程度は各構成国に任せるという消極的な規制になっている。
3 当局や実験施設にバイオセーフティ委員会を設置することとその役割の重要性が強調されていない。
4 附則Wの表T:実験室(動物施設)の活動のための封じ込めと他の保護的対策で、各対策がP1からP4までの実験室・施設で必要かどうかを規定する言葉として optional(選択自由の意味、実施的にはどちらでも良いの意味)が使われていることは積極的な規制をする必要性という観点からすれば不適切である。例えば、カナダの指針のように、desirable(望ましいの意味)という言葉のほうがより適切である。このことの結果は、P3実験室の各項目での必要・不必要の判定に関してoptional という判定がかなり多くなっていることである。、このことはP3実験室は危険度と安全対策のレベルという点ではP4実験施設よりもP2実験室により近いという印象を与え、実際、optional だからその対策を取らなくても良いという選択をして実験施設を設計することも可能である。だとすれば、P3実験室といっても実際にはP2実験室に限りなく近い場合も許されることになる可能性がある。

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