科学者として                                 

新井秀雄(代表幹事)

エボラ出血熱、針刺し事故

 

 今年の312日、ドイツのハンブルグにある熱帯医学ベルナード高等研究所の45歳の女性研究者がエボラウイルスを実験用マウスへ接種する最中に自分の指に刺してしまう事故が発生した。直ちに隔離病棟に入院されたが、現在のところこのウイルスに対する有効な治療法は確立されていない。

 急遽カナダ(ウイニペッグにある国立微生物研究所)から、まだ人体への適用が確かめられていないワクチンを緊急に取り寄せ、事故発生48時間内に接種され、これは人体への初めての接種となった。今のところ(328日)発症の兆候は無く、このまま42日まで発症がなければこのままで経過する可能性がある。43日の時点で電子メールPromedへの通信はみられていない。

 エボラ出血熱に対するワクチン開発については、東大医科学研究所の河岡義裕博士がマウスでの実験で有効であったものを米国の科学雑誌(電子版)へ発表したことが新聞報道されていた。

 エボラウイルスの実験室感染事故に関しては、これまでも200455日にロシアの国立ウイルス学バイオテクノロジー科学センターのVektor研究所(米国CDCとともに天然痘ウイルスの保管施設)の46歳女性研究者がモルモットへ接種しているときに針刺し事故を起こして519日死亡している。

この研究所は世界中の危険なウイルスを最も完全に収集している施設のひとつとして著名であり、これまでにも、エボラウイルスではないが、やはりわが国には存在しない(それ故、エボラウイルスとともにP4施設での取り扱いとなる)マールブルグウイルスの実験室感染事故を1988年に起こして死亡しているし、1990年にはやはりマールブルグウイルスの事故があったが、このときは生存した。

 わが国の現P4施設(武蔵村山市の国立感染症研究所の施設)が改修されて稼動直前状態と聞いている。エボラ等の診断を行う施設との位置付けとの新聞報道が先頃あったが、診断するためには生きたウイルスの取扱いが必要になるはずである(診断用の不活化ウイルスを用意するためにも生きたウイルスの取扱いは必要となる)。不幸にして、実験操作中に実験室感染事故が発生してしまった場合の隔離施設、その施設への搬入手段、地域へのバイオハザード対応等、緊急時の対応方法はどのようになっているのか。P4施設内部に隔離施設が併設されていることがバイオハザード対策上から求められるが、この点で感染症研究所の施設は大丈夫か。国内には存在しない危険な病原体ウイルスの取扱い施設であり、多額の税金を使用して改修までしたのであるから、この点もしっかり見極めることが求められる。


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