東大医科研におけるバイオハザードについて

(白金の自然と環境を考える会)



なぜ住宅密集地=白金台に新たに研究棟を建築するのか?

   いま、東京都港区白金台4丁目6番1号に所在する東京大学医科学研究所(以下「医科研」という)は、総合研究棟、合同ラボ棟等4棟を建築中である。 これら建物は、医科研における感染症等の先端医療研究や、遺伝子研究に使用されることになることは必至である。

 医科研は、細菌類やウイルス類など約1600株の病原微生物をはじめとして、生物産生毒素、DNA、寄生虫等を保有している。

  平成12年度における実験用動物の飼育数は、マウス約115,000、ラット約11,000、ウサギ190であり、この処分数は、マウス94,393、ラット998、ウサギ86、イヌ11、コモンマーモセット6としていて、これら実験用動物を使用してエボラ、エイズ等の感染症実験、遺伝子組換え実験を行っている。このほかに有害化学物質、放射性物質をも使用していることは広く知られている。

 一方、併置の附属病院における平成11年の患者延べ数は、外来が25,047人、入院31,215人にすぎず、周辺の病院である北里病院における平成12年度の患者延べ数、外来275,480人、入院88,330人、都立広尾病院の約277,000人、NTT関東病院の外来505,784人、入院138,109人に比して桁違いの少人数である。医科研病院の診療科及びベット数がこれら病院より少ないとはいえ、この患者数からして先端医療のための病院であるとともに、医科研が研究機関であることは明白である。

 ところで、当該地域は、第1種中高層住居専用地域であって建築基準法別表第二(は)において、研究施設の建築は認められていない。

 それにもかかわらず東京都建築指導課は、建築基準法第48条及び昭和52年10月31日付建設省住指発第778号通達にある「教育施設、研究施設その他の教育文化施設で居住環境を害するおそれが少ない」とある規定に該当するとして、平成13年2月13日付第134号にて建築確認証を交付している。

 この「居住環境を害するおそれが少ない」との判断資料は、医科研からの報告のみであり、かつ利用形態として取上げるべき病原体や遺伝子実験によってもたらされるバイオハザードに関する検討がまったくなされていないのである。

 この東京都建築指導課の態度も問題であるが、医科研が建物を病院あるいは学校として建築確認を受けながら、実態は研究施設として使用することは脱法行為であると言わざるを得ない。国家機関の行為として許されるものではない。

 また医科研は、ヒトゲノム関係を大塚製薬と、遺伝子治療等の開発を目的とする造血因子探索研究を中外製薬と共同研究している。

 わが国のバイオ研究は、ヨーロッパ・アメリカより立ち遅れているとして、政府、産業界、各研究機関が、この研究を推進しており、バイオ産業をひとつの軸としてわが国の景 気を浮揚させようとしている。これによりやがてバイオ産業が次つぎに誕生することになる。

 医科研のヒトゲノム解析センター長中村裕輔教授が、月刊誌文芸春秋平成13年4月号に寄稿した「遺伝子診断ビジネスのでたらめ」の中で、「一刻も早く遺伝子に関わる認可や情報を管理するナショナルセンターを立ち上げて規制に踏み切るべきである。」と指摘している。また、研究者及びバイオハザードに関心を抱いている学者、民間人らも、遺伝子研究の制度作りが必要であると叫んでいる。

 それにもかかわらず国は、この問題を放置したまま研究を推進させており、当の医科研自体も、バイオハザード防止のための法制化について、現時点では法制化することになじまないとの認識が学界等に存在するとし、文部省告示等の指針等に基づいて研究しているので安全であるとしている。

 しかし、遺伝子研究の産業化が推し進められると、バイオハザードが広範囲にかつ多量に発生するおそれがあり、この危険性が憂慮されることからWHOは、「バイオ施設を住 宅地・公共施設からできるだけ離れて立地すべきである」と提言している。 この意味において、なぜいま住宅密集地である白金台の地に新たに研究棟が建築されなければならないかが問われる。

 これに対し医科研は、「これまで感染症、癌その他の特定疾患に関する学理及びその応用研究を設置目的として研究を進めており、その研究成果を生かし、附属病院の患者に対し先端医療を行っているので、研究所と病院が一体となる必要がある。」と主張している。

 しかし、附属病院の存在は前述のとおりであり、先端医療機関であるとしても地域医療に対する貢献は少ないのであるから、病院と研究所が一体である必要性について説得力を欠くものであり、むしろ研究機関として他のふさわしい地において拡充を図るべきである。 このことからしても医科研の主張は、研究者の利便性のみを考えての論理を展開しているにすぎないのであり、研究者としての倫理観の欠如を物語っている。

労働安全衛生法令に合致しない医科研規程

  わが国には、遺伝子組換え実験等に関する法規制が存在しないところ、医科研は、文部省告示である「大学等における組換えDNA実験指針」をはじめとする各種の指針、そして放射性同位元素を使用しての研究など関係法令に基づいて実験を行っているので、安全性は確保されているという。

 この放射性同位元素を使用しての研究について、医科研は、「東京大学医科学研究所放射線障害予防規程」を設けていて、これに基づいて実験しているとしているが、そのなかで、第17条(個人被ばく線量の測定)については、
@ 放射線の量の測定は外部被ばくによる 線量について行うこと。
A 測定は、胸部(女子においては腹部) について1センチメートル線量当量及び70マイク ロメートル線量当量について行うこと。
B 前号のほか頭部及び頚部から成る部分、 胸部及び上腕部から成る部分並びに 腹部及び大腿部から成る部分(女子にあ っては腹部及び大腿部から成る部分) 以外の部分である場合は、当該部分につ いて行うこと。
などとしているが、この種法令における 準用すべきであると考えられる昭和47年法律第57号労働安全衛生法及び同47年政令第318号労働安全衛生法施行令に基づく電離放射線障害防止規則第8条(線量当量の測定)の規定より精緻さを欠くばかりか、同規則における第4条・5条(放射線業務従事者の被ばく限度)の定めが前述の医科研予防規程には存在しない。加えて予防規則における第16条(遮へい物)の定めも存在しない。 これについて医科研は、医科研における放射線使用は微量であるから必要としないと主張するであろう。

 しかし仮にそうであっても放射線業務従事者は、日常的に被ばくしていることを考えると杜撰な規定であり、これで果たして健康障害を防止できるかが疑問である。そして同障害防止規則が定めている作業環境測定も欠いているので、作業場から外部へ漏出する排気防止措置も十分ではないと考えられる。

 また「東京大学研究用微生物安全管理マニュアル」に定める基準を準用し、遺伝子組換え実験に用いる実験室を使用しているとしていて、「微生物を用いる実験室の安全設備及び運営の基準」を次頁のように策定しているという。その上、同実験にかかわる遵守すべき関係法令として労働安全衛生法第22条、第27条を、これに伴う労働安全衛生規則第576条、第581条、第585条、第586条、第593条、第624条を揚げているが、DNA実験においては、癌の羅患確率が高いと危惧されていることからして、むしろ労働安全衛生法第28条3項が規定する化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針に基づくの「四塩化炭素による健康障害を防止するための指針」等を準用すべきであると考えられ、これら指針における作業環境管理、作業管理の規定を遵守するとともに、ここでも作業環境の測定を行うべきであるところ、なぜかこれを無視している。

 さらに地震、火災等の災害時あるいは放射能の漏出、実験用動物の脱走等における緊急連絡網の整備を住民側が求めたところ、各関係機関と協議し緊急連絡網を策定したとするが、これは泥縄的に作成した緊急連絡網と題する一片の書面を各関係機関に示したにすぎない。にもかかわらず、医科研の責任者は、この方法をも協議であると強弁している。このことからしても医科研の周辺住民に対する態度は尊大、不親切かつ権威をふりかざした高圧的なものになっていることが認められ、バイオハザードに取組む姿勢はまったく認められない。

戻る