ワクチントーク23『強毒性新型インフルエンザの脅威』(藤原書店)の感想

             臼田篤伸(ワクチン問題研究者・歯学博士)


●強毒性()の意味

この本は、岡田晴恵編で、速水融・立川昭二・田代眞人・岡田晴恵の4人の著。前の二人は、医療史・経済史、人口学などの分野の専門家。後の二人は、感染研ウイルス第三部所属の部長および研究員。まず、特徴的なのは、一世紀前のスペインカゼの惨状にこの本の半分が費やされている。それはそれで読み物として結構だが、当時の状況をそのまま現代にあてはめ、今の対策が極めて不十分だ、といった論法に終始しているのが本書の特徴だ。それと、「スペインかぜ」を「スペイン・インフルエンザ」と“改名”している。次に中心テーマとなる強毒型、弱毒型の区別を定義している。20世紀に3回起こった新型インフルエンザは、全て弱毒型の鳥インフルエンザに由来し、呼吸器疾患、局所感染に留まっているとのこと。これに対し、現在流行しているH5N1型鳥ウイルスは、人に感染した場合、全身感染を引き起こし、病原性が特に強いことが確認されているという。H5型とH7型ウイルスの場合、弱毒型から強毒型に変化することがあり、今日問題となっているH51は、まさにこの例だと。これは、HAタンパク上のアミノ酸構造の違いに基づく。従来、「家禽ペスト」と呼んでいたが、2003年の法改正で、「高病原性鳥インフルエンザ」と名づけられた。

●強毒型発生の背景

AIDS,BSE,SARSの場合もそうだったが、自然界の法則を無視した動物の飼育方法が、未知なる病気を生み出すことがある。連載JQでも言及したが、強毒型発生には、大規模養鶏がその背後に潜んでいる。対策として、この本でも鶏でH5とH7型が発見されたら全処分し、養鶏業者への十分な補償を唱えている。安価な鶏肉、鶏卵の供給と国民を危険から守る必要性を両立させることを説いている。こうした評価すべき面も見られるが、他の大部分ではいたずらに恐怖を煽り立て、新薬、ワクチン業界の大宣伝に努めている。

●的を射た本庄代表の指摘

ここで、別の本『感染爆発・鳥インフルエンザの脅威』(マイク・デイビス著)への本庄重男当センター代表の書評を引用したい。『からだの科学』250号によると、「貧困をなくし、政治や経済の権力者達の腐敗と狡猾な儲け主義をなくさない限り、鳥インフルエンザの世界的流行は不可避だとする著者の指摘は実に重い」と評価しつつ、本庄代表は私見として、「著者はインフルエンザワクチンと抗ウイルス剤の有効性や安全性への疑問を全く示していないが、このあたりの問題は的確に論及されるべきではないか。また、進化学的にみれば、ウイルスの毒力変異は強毒化と共に弱毒化・無毒化の方向もありうるのだから、それらの変異発現の条件が不明の今日、強毒化の方向のみを力説することははたして妥当であろうか」と述べ、専門家が、常に見落としがちな重要な側面を指摘する。

●サイトカインストームとは

この聞きなれない言葉の意味は、「生体の防御免疫機能の過剰反応」と説明されている。分かりやすく言うと、微小異物の侵入をキャッチした免疫細胞が、異常なほどに大きく反応し、生理活性物質(サイトカイン)を大量に放出し、逆にそれが体の臓器に大きなダメージを与える現象のことだ。この過剰免疫反応は、SARSにも現われた。気をつけなければいけないのは、免疫反応というからには、事前に感作されていて、抗体を持っていたことではなかろうか。つまり、H51に一度感染していたことになる。未知なる病原体だったために、大量に抗体を準備したということにならないか。よって、2度目の若干抗原性を変化させたウイルスの感染で過剰免疫反応が起きたと私はみる。感染鳥と頻繁に接触していた人がこれに該当するはずだ。

●新型への対策のあり方

上記のように、新型の本質を的確にとらえないと、いたずらに恐怖を煽る対策しか選択できない。よって、新型の発生、さらには、パンデミックは時間の問題という論法になる。冷静に行動することが肝心だ。現代の科学技術を駆使して発生の防止、伝播の阻止を図る努力によって、水際で、被害を最小限に食い止めることは可能と思う。病原体すら分からなかった100年前のスペインカゼと同一の次元でとらえていることに問題がある。交通網の飛躍的進歩を被害拡大の最大要素として、これをマイナス要素としか捉えられないところによく表れている。こうして、ワクチン・新薬オンリー路線を突っ走ることとなる。ワクチンは、新型用はすぐ作れないから,5型に共通の基礎免疫を作るプロトタイプワクチンが作成される手はずになっているという。



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