■炭疽菌取り扱い実験中に感染発症が懸念された事例              

新井秀雄(代表幹事)

 

世界の感染症情報を電子メールを使って送受信するボランティアによるProMed-mailというネットワークがあり、その情報はこのニュースレターにも時々紹介されてます。昨年の3月フランスのパスツール研究所に関連する全国的な病原体参照研究所の組織の1つで炭疽菌取り扱い実験中に感染が疑われた事例が発生し、急遽5名が隔離されたことが送信されました。当初のメールはおよそ次の内容でした。P3施設で炭疽菌のDNAを抽出操作して材料を加熱処理してから施設外に持ち出し、以降はP2施設でこのDNAを使って実験を進めた。この研究施設では、P3施設で炭疽菌を加熱処理したときには確実に滅菌されていることをチェックするために生物学的試験(すなわち培養試験で陰性になっていること)を実施することになっていたが、その時は培養試験の結果が出ない前に抽出したDNAP2施設に持ち出して実験を進めてしまった。その後、培養試験結果がいつもの通り陰性であることを信じていたに違いないが、期待に反して陽性結果(すなわち滅菌されていなかった)が出てしまったので急遽P2施設で以降のDNAを取り扱って実験をすすめていた5名が隔離病棟に搬入され経過を監視された。炭疽菌に感染の可能性があるので、有効な抗生物質が一定期間投与され続けたものと考えられる。

当初のメールでは以上の内容が記載されていたが、現在もう一度そのメールを閲覧するために探したが見つけることができない。

その後、その5名の感染被疑者は全員発症がみられずやがて隔離施設から放免されたこと、そしてこの事例は実験者が炭疽菌の液体培養液を床に落とした結果炭疽菌の汚染が施設内に広がったことによる感染の可能性であったのではないかとの推測コメントが附されたメールが発信された。しかし、なぜか最初に発信された滅菌非確認の内容を告げた(内部告発と思われる)メールが削除されてしまったようである。結果的には炭疽菌による発症がみられなかったので事件として取り扱われないで削除処分されてしまったのかもしれない。そのまま残され続けることを不都合とする何らかの圧力があったのだろうか。その後の関係者の抗体検査の情報もなく詳しい顛末については知らされていない。

 以上の事例から評価できるのは、フランスではこのような病原体を取り扱って滅菌処理したときには生物学的試験(培養試験によって確実に死滅しているかどうかを検査する)を行うことになっており実際に実行していた点である。パスツール研究所を中心にしてフランス国内のバイオ施設ではそのような実験操作指針になっているものと思われる。しかし逆に問題になるのは、生物学的試験を形式的に行っていても、その結果を待たずに(すなわち、滅菌されているに違いないものとして)以降の実験を進めてしまっているのが実際であることのようだ。この事例以降、当分の間は相当に慎重に実験が進められているに違いない。

 昨年の4月19日、藤沢市の市役所会議室で「武田薬品研究所建設に関する第3回住民対話集会」が開かれ、筆者は武田問題対策連絡会アドバイザーとして参加した。その際、武田薬品サイド(13名の参加)に対して上記の事例を紹介してから現在の武田のバイオ施設での滅菌チェック等の実際や実験操作指針について質問したが、的確な回答はなく、確認して後日回答するとのことであった。武田薬品に限らず、国内のバイオ施設での滅菌の確認に生物学的試験を確実に行っているところがあるかどうか、また少なくとも実験操作指針にそのことが明記されているところがあるかどうか。バイオ施設への立ち入り検査が実現する場合には、是非確認が必要とされる項目の1つである。


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