■国立感染症研究所との会見に参席して                    

新井秀雄(代表幹事)

 

9月10日午後4時から国立感染症研究所(以下、感染研)において開催された周辺住民と感染研との会見に参席した。隣接の身障者センターで打ち合わせをしてから7人揃って感染研へ向かって歩き始めたところ、道路側の一つの窓(上から4つ下の階)が開いているのに気付いた。建物の端にある会議室の窓である。身障者センターに面して横長に建っている感染研の建物部分は3列の構造になっている。センター側に窓が連なって見えるのが居室部分の列であり、その端に会議室と反対端にトイレがある。この居室列と反対側(センターから遠い側)に実験室が並ぶ列があり、これらを挟む形で通路の列がある。実験者は、居室を出て通路を横切り実験列にある扉の一つを開けて入る。裁判で示されたようにこの実験区域へ入る扉は下部が開いているので通路との間は通気状態にある。つまり実験室の空気は通路を介して居室と通気しており、この通気構造は会議室もトイレも変わりない。

玄関ホールの2階にある小講堂に導かれ感染研からの参加者と対面する形でテーブルについた。奥の端近くに座ったところ、バイオセーフティ対策室室長の杉山和良氏と感染病理部長の佐田徹太郎氏が目の前に着座した。感染研側は総務部長が取り仕切り、他に事務官が3人陪席していた。

窓が開いていることを告げたところ、「あそこは会議室だから…」との返事であった。裁判係争中であれば考えられない事態である。居室側の窓は、実験室の窓と同様に、各窓の一つ一つにセンサーが取り付けられていて誤って開放すれば直ちに玄関横の防災センター室(ガードマンが常駐して敷地内各所に設けられた監視カメラのモニターに対座している)に警報が出て係員が即座に駆けつける体制になっていた。原則的に感染研の窓は開放禁止であった。通気構造から容易に判るように居室も会議室も変わりない。バイオセーフティの実質的な責任を負う立場にあり、毎年実施される所内安全講習会を執り行うバイオセーフティ室長が平然と「あそこは会議室だから…」と言ってしまう背景には何があるのか。

バイオセーフティ室長の杉山氏がWHOのマニュアルを精読していないことが判った。つまり、例の「P3実験室からの空気はヘパフィルターを通して排気してもよい…」の箇所に対して無知であった。この重大(由々しい)な箇所に対する感染研の把握を知るよい機会と考えてぶつけてみたが無益であった。「参考にする」ことはあっても、遵守する義務はないというWHO軽視の態度を再確認した。

先に感染研所長に提出した、病原体等安全管理規定の改訂版に対する公開質問状に対して、感染研の回答が回答の形になっていないことを告げ、改めて再質問を所長宛に出すので、必ず所長名で回答するように要請しておいた。今回の対話に当たってこの公開質問状のことは事前の打ち合わせ項目になかったことを理由に病理部長が横から文句を言っていたが、総務部長は公開質問状と回答のファイルを持参しており話題に上ることを覚悟していたようだ。公開質問状を所長に見せたのかとの問いに対して「見せた」と言明していた。しかし、病理部長はその一切を関知しておらず、部長会にはこの件が出されなかったようだ。部長会に出されないものを宮村所長が読んで自らあのような杜撰な回答指示を下したとは信じ難い。回答が所長名でなく、責任の所在が曖昧な組織名の「感染症研究所」の名前で出された理由がわかったような気がした。

大地震や火災、テロ攻撃等のような非常時のバイオハザード対策の具体的な方策の一つとして、感染研の屋上に周辺へ警報を発する拡声器の設置を今回改めて周辺住民側から要請した。屋上に拡声器を設置する議論はこれまでの裁判記録のどこにもないとの感染研総務部長に対して、その必要性をぶつけたが具体的回答はなく、かえって非常事態が発生したときには直ちに新宿区へ通報すること、したがって周辺住民への通報等の処置は新宿区の役割であると言い逃れていた。あの旧ソ連時代のスベルドルフスク市の陸軍生物研究所で発生したバイオハザード惨事の本質は「封じ込め施設」の強制排気システムにあることは明らかであり、そこから導かれる教訓は、バイオハザード対策は発生源において即座に非常事態を警報することが不可欠である。そのときの風向を確認して風上に向かって緊急に避難する以外に周辺住民の対処はありえない。事態発生に際して新宿区へ通報し、新宿区が広報車を繰り出して周辺住民へ周知せしめ避難を誘導するような時間的余裕があるわけもなく、そのような迂回通報経路を想定する考えは人命救助の基本を無視したものである。感染研の敷地内に高い塔を設けて周辺360度から容易に目視できる高さに風向指示器と高性能の拡声器(非常事態を関知して「自動的に」警報を発するシステム)を設置し、「非常事態発生、風向は○○、○○の方向へ避難せよ、○○方向へ避難せよ…」との警報を出すようにする。感染研は、自動的に警報を発する条件について精査検討を続け、その過程を周辺住民へ公開して周知徹底し協力を求めるのが現在緊急の新宿区戸山におけるバイオハザード対策であり、他のバイオ施設においても同様である。今すぐに感染研が再移転できないのであれば、何はともあれ、このシステム導入の要請と実現を感染研だけでなく新宿区と国へ働きかけ、しかも緊急に実現しなければならない。


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