■ 国立感染症研究所病原体等安全管理規定の改定(第三版)           

新井秀雄(バイオハザード予防市民センター代表幹事)

感染症法(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)がバイオテロ対策を主目的に改正され(06年12月8日成立、07年6月1日施行)、この施行に合わせるかのように「国立感染症研究所病原体等安全管理規定」(07年6月)が改定発行された。宮村達男感染症研究所長の序文(07年5月31日)に改定の経緯が要約されているが、より詳しくは感染症研究所バイオリスク管理委員会の名前で感染研ホームページに掲載されているhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/28/329/dj3293.html)。それによると、今回の改訂は「(感染症法)の改正や最近の情勢の変化により、病原体等の紛失、盗難、不正使用、意図的放出を防ぐためのバイオセキュリティの枠組みが追加要求されることになり、全面改正(第三版)に至った」という。また、「バイオセーフティに基ずく病原体等の取り扱いの自主規制ないし自己管理の観点で定められた感染研の病原体等安全管理規定は、バイオテロ防止対策の一つとして、特定病原体等の国家管理に関することを追記する必要性がでてきた。それとともに、バイオセーフティに関わる新しい考え方で病原体等の安全管理体制を見直すこととなった」という。ここで「バイオセキュリティ」とは、上掲「病原体等の紛失、盗難、不正使用、意図的放出を防ぐための枠組み」を指し、この改定の目的が福祉の観点とは直接無関係のバイオテロ対策(国家目的)であることがわかる。

 では、旧版(第二版)と今回の第三版とではどこが変わったのか。一つは、上記のバイオセキュリティ(バイオテロ対策)である。二つ目は、今回の改訂でBSL4実験室(P4実験室)の記述が随所にみられ、あたかもBSL4施設の稼動が既定のごときであり、この第三版改定安全管理規定に基づいて何時でも稼動に対応できるとの印象を受ける。バイオテロ対策を表向きの口実に、感染研武蔵村山支所にある改築P4施設の実質稼動を目論んだ(それを可能にする)今回の改訂との見方が出来るようであり、それが今回の改定の主目的の一つとも考えられる。3つ目は、「実験動物の病原体等のバイオセーフティレベル分類」「病原体等のABSL分類」となって、動物バイオセーフティレベル(ABSL)の用語が導入された。

 「病原体等の取扱BSL分類の考え方を改定」したとして、「従来の管理既定では、病原体のBSLは分類基準により直接決定されていた。つまり病原体等を試験管内で通常の量を取り扱う場合は、ヒトを基準として、レベル1〜4に分類した。レベルのそれぞれは「個人」あるいは「地域社会」に対する「危険度」の高低の組み合わせで決められていた。今回から、病原体等の取扱BSL分類は、病原体等のリスク基準に基づき、さらにリスク項目を評価し、BSLを決定する。そして対応する安全管理基準で病原体等を取り扱うことにした。これは基本的にWHOのバイオセーフティ指針第三版(2004年)にもとづくものである」といい、「当該指針の用語を日本語化するに当たって、そのままの和訳では誤解を生じる可能性があることから、当該指針の作成に関わった国内外の委員および有識者にその意味を問い合わせ、正確な理解が得られるような用語に改めた」という。さらに『種々なヒトへのリスク基準をもとに、「個人」は一義的には実験者(あるいは病原体等取扱者)で、広い視点からは実験者と接触するヒトを含むとして「病原体等取扱者」とし、「地域社会」は実験者と共同実験作業者、実験室使用者・作業者、同僚、研究所の勤務者そして家族等、実験者と種々の場面で関わる人々の意味であることから、「病原体等取扱者と感染の可能性のある接触が、直接あるいは間接的に起こりうるその他の人々」として「関連者」とした』といい、バイオ施設周辺の具体的生活者を対象とした従来の「地域社会」概念はものの見事に排斥されている。

 この「正確な理解がえられるような用語に改めた」結果、次のような「病原体等のリス

ク群による分類」がなされるという。

リスク群1(「病原体等取扱者」及び「関連者」に対するリスクがないか低リスク)

      ヒトあるいは動物に疾病を起こす見込みのないもの。

リスク群2(「病原体等取扱者」に対する中等度リスク、「関連者」に対する低リスク)

      ヒトあるいは動物に感染すると疾病を起こし得るが、病原体等取扱者や

      関連者に対し、重大な健康被害を起こす見込みのないもの、また、実験室内

      の曝露が重篤な感染を時におこすこともあるが、有効な治療法、予防法があ  

      り、関連者への伝播のリスクが低いもの。

リスク群3(「病原体等取扱者」に対する高リスク、「関連者」に対する低リスク)

      ヒトあるいは動物に感染すると重篤な疾病を起こすが、通常、感染者から

      関連者への伝播の可能性が低いもの。有効な治療法、予防法があるもの。

リスク群4(「病原体等取扱者」及び「関連者」に対する高リスク)

      ヒトあるいは動物に感染すると重篤な疾病を起こし、感染者から関連者への

      伝播が直接または間接に起こり得るもの。通常、有効な治療法、予防法がな

      いもの。

 いますぐ流行しても不思議ではないと喧伝される「新型インフルエンザ」は、ワクチン対応やタミフル等もあることから、「リスク群3」に分類されることになるのか。この点で例えば「スペイン風邪」のウイルス取扱は、感染研(従って、国内の各バイオ施設においても)にあってはP3実験室で可能とされかねない。さらに、バイオハザードの問題がいつのまにか旧来の「実験室内感染」のレベルに後退してしまっている。今回の改訂によって、感染研病原体等安全管理規定は感染研内側に限局された内部職員とその家族等の関連者にのみ適用される感染研に好都合な安全管理規定になり下がった感がある。果たして訳語の妥当性はどうか、そしてバイオハザードに関してWHO等の国際的理解水準がここまで後退してしまったと断定できるかどうか。