感染研における最近の不祥事について


2005年4月26日

                               予研=感染研裁判の会(代表:武藤徹)
                               バイオハザード予防市民センター(代表:本庄重男、新井秀雄)

(1)4月21日・22日の朝日、毎日、読売新聞が伝えるところによると、国立感染症研究所(以下、感染研と略す)は、「遺伝子組換え生物等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に違反し、無届で遺伝子組換えマウスを使う実験をしていた件につき文部科学省より実験の一時中止と再発防止策の報告とを指示されたとのことである。そのマウスは(財)実験動物中央研究所(以下、実中研と略す)により、法令違反のまま生産・販売されていたものであった。かくして、この事件は民間研究所と国立研究所による法律の無視・違反が重なった複雑な様相を呈している。
 そもそもこの法律(2003年6月成立)は生物多様性条約(1992年採択、93年12月発効)に基づいて策定された「バイオセーフティ・カルタヘナ議定書」(2003年9月発効、日本は同年11月批准)に対応する国内法として成立したもので、遺伝子組換え生物等(LMO, living modified organism)の使用等の規制措置を講ずることを目的とする法律である。

(2)この法律によれば、LMOを取り扱っている個人や事業所は、その目的・種類・執られる拡散防止装置等について主務官庁に申請する義務があるが、実中研および感染研はともにこの義務を無視または怠っていたわけである。実中研はともかく、国立機関である感染研がこのような法律違反を犯したことは、文字通り犯罪的不祥事であると言える私たち原告市民は、すでに予研=感染研裁判の法廷でも再三再四指摘してきたことであるが、感染研にはこのような法律無視・軽視の体質が潜在していると言わざるを得ない。今回顕在化した事件で、私たちは「またしても遺憾なことを」の思いを深くする。因って、感染研の事件関係者ら(実験実施者、マウス購入業務関係者及び所長)の厳重処分を要求する。

(3)この事件の背景には、@ポリオウィルスに対する感受性遺伝子を組み込んだ実験用マウスの開発(本来ポリオに罹らないマウスを、罹るマウスにする遺伝子工学技術)、Aポリオウィルス感受性マウスの量産体制の確立、B同上マウスの市販による商業利益の確保、C本来ポリオワクチンの安全性・有効性検定に使われるサル類の入手や取り扱いの困難性、Dサル類に替わる実験動物種の探索(上記マウスを使用する意図の発生、といった事情があり、実中研の企業性(A、B)と感染研の使用意図(C、D)とがうまく結びついて事態は進展したと見られる。実中研は、世界保健機関(WHO、ワクチン類の国際的な製品基準や検定基準を決めている)にもサル類に替わって組換えマウスを使える基準を採用するよう強く働きかけていた時期があった。

(4)ポリオワクチン検定用にサル類を使うか、組換えマウスでこと足りるか、いずれを採るか決める前には、両者の比較検討のための事件が十分・慎重に行われる必要がある。ウィルス量(ワクチン量)への感度、病変の発生部位・程度、病気(運動神経麻痺)の進行形か、予後の異同等々検討すべき課題は多い。導入遺伝の発言の安定性も問題であろう。したがって、感染研が行っていた組換えマウスでの実験は、学問的にも国民の健康確保のためにもぜひ必要な実験であること間違いない。つまり、実験そのものには非難されるべき点はないものと思われる。

(5)しかし同時に、感染研ほど多数の組換えマウスを使う機関は他に存在しないであろうし、実中研側から商売中心で見れば、感染研は最大の顧客ということになる。この点も見極めて、今回の法律違反の捉えることも忘れてはなるまい。

(6)なお、ポリオウィルス感受性遺伝子導入マウスが、もし実験室の閉鎖環境から野外の開放環境へ逃げ出た場合の生態系の及ぼし得る影響は、次のごとくであろうと考えられる。第1は、野生ネズミ類との交雑によりその感受性遺伝子が野生ネズミにも広がること、第2は、第1の結果として、ポリオウィルスに感受性のある野生ネズミが出現し、自然界におけるポリオウィルスの生態関係が変化し、野生ネズミがポリオウィルスの宿主(または、媒介者)になる恐れがあること、第3は、逃げたマウスがもしポリオウィルスやポリオ生ワクチンを接種されていたとしたら、ウィルス又は生ワクチンウィルスによる環境汚染が発生し、最悪な事態としては人間集団への同ウィルス伝播の源泉となる可能性があること。何れにしても、人間集団でのポリオの自然流行との関連で無視できない問題を発生させる恐れを考えなければならない。

(7)以上のような次第で、感染研が起こした今回の事態は、恐るべき感染研の汚辱体質を反映しただけでなく、生態系保全(バイオハザード防止)の全人類的課題達成への露骨な挑戦ともみなされる事件である。われわれ市民は決してそれを許さない覚悟である。感染研当事者は、速やかに全国民に謝罪し、的確な対策を採るべきである。



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