高槻JTバイオ施設情報公開請求提訴の経緯


ー国・バイオ企業・学会の巨大ネットワークに対抗してー

(二木 崇:大阪・高槻JTバイオ施設情報公開訴訟原告代表)


《はじめに》

 JT「医薬品総合研究所」の情報公開訴訟原告の二木です。
 どんな裁判もそうなんですか、住民が裁判をやる場合、最初から裁判をやろうとだれも思っていません。いろいろと反対運動をしていくが、結果的に押し切られ、止むに止まれず裁判闘争になる、予研裁判もそうでしょうし、私たちもそうです。JTのバイオ施設建設反対運動は、予研の反対運動にちょうど3〜4年遅れで、ほとんど同じ軌跡をたどりました。


《日本のバイオ施設の「ワースト2」ーJT医薬研究所》

JT医薬研究所の立地条件

 芝田先生に高槻の現地に来ていただきまして、JT医薬研究所の立地条件はワースト2(ワースト1は予研)という「ご鑑定」をいただきました。私自身は高槻での反対運動を10年間の経過を思い浮かべながら、先程の芝田先生のお話しをうかがっていたのですが、私たちが反対運動に立ち上がったのは89年から91年です。私の家から研究所の敷地境界までの距離は46〜47メートルです。最初、建設の計画が持ち上がった時、ちょうど子供も大きくなってきたので引越ししようかなとも思いました。でも、ともかく説明だけでも聞いてみようと思い、説明会に行きました。

住民説明会

 JTは、住民説明会を89年の12月28日という年末の押し迫った住民が参加しにくい日に設定し、文書も一切出さずに行われました。JTは予研の反対運動から学習していたのですね。説明は全部スライドとOHPを使って行われました。説明会の日の設定や説明のやり方に非常に疑問を持ちました。それで引っ越しをあきらめました。
 年が明けて、松の内が開けないうちに2回目の説明会がありました。その説明会で、私はさんざん質問をしました。実はそこで質問できたのは、芝田先生からちょうど88年に出版された『生命を守る方法』を冬休み中に読んでいたからです。それと、私自身は学生時代から反原発運動に深くかかわっており、原発推進に熱心な関西大電力や「もんじゅ」の問題にも取り組んできました。その当時の反原発運動のブレーンの1人は市川定夫先生で、私は市川先生を科学者としての生き方も含めて非常に尊敬しておりました。その市川先生から20年前にに、「原発は産業として見たときに経済的にペイしない、これからはバイオだよ」と言っておられました。そのことがずっと頭の隅にありました。市川先生も、ちょうど89年に『新公害原論』を出されておられます。この『生命を守る方法』と『新公害原論』の2冊を地元では「バイブル」と称して反対運動に取り組んなのです。

強行着工と実験の差し止め提訴

 結局、反対運動は7400名ほどの反対署名を集めるまで盛り上がった時期もあったのですが、予研と同じように強行着工という形で事実上負けてしまいました。このまま引き下がるのは納得いかないということで、私たちも実験の差し止め訴訟を起こそうとしました。ところが、予研の場合と違って、JTは民間の株式会社扱いとなり、差し止め裁判を提訴する時は相当な額の証紙を張らなければなりません(予研の場合は数千円)。弁護士さんと相談した結果、私の経済力という点で差し止め訴訟はあきらめました。そこで視点を変えて、情報公開という点で裁判を起こした訳なんです。
 こういう施設を安全かどうか議論する場合、まず情報を全部開示されないと圧倒的に住民は不利なんですね。スライドとOHPだけの説明では、あとに何も情報が残りません。原告は私ひとりですが、被告は情報公開の実施機関である高槻市の江村市長です。裁判を起こすと直ちにJT本社、JT不動産と日建設計の3社が参加人として加わりました。事実上、JT相手の裁判であり、高槻市は添え物といえます。


 《中村桂子氏らの学識経験者が果たしてきた役割と実態》


 次に、私たちの反対運動と裁判の中で、学識経験者といわれる人たちの果たしてきた役割と実態についてお話ししたいと思います。その中から、それへの対抗軸としての「研究センター」にどのようなことが期待できるかが見えてくると思うからです。

形だけのアセスメント

 本来は、建設前にこの施設が安全かどうかの「アセスメント」をしなければならないのですが、一応それに代わるものを形だけしているのです。それでは添付しました「日本たばこ医薬品研究所バイオ実験等に関する懇話会」の報告資料です。私が言いたいのは、たったこれだけがアセスメントに代わるものなんだということです。4回会議を開いていますが、実質的には1回当たり2時間も経っていません。議事録もありますが、内容はばかばかしい限りです。学識経験者は大阪医科大学の吉田康久、中井益代、河野公一の3氏(うち中井氏はエイズの電子顕微鏡撮影で有名な先生ですが)、彼らが質問し、JTが説明する形で、さらっとなぜる、ああそうですかというだけのものです。会議は全くの非公開で、議事録も公開を請求して、最初は非公開、異議申し立てをして、ようやく出てきたものです。おそらく、この研究所は日本の製薬企業では最大規模の研究所だと思いますが、この規模の研究所に対しての安全の確認がこの程度のものなのです。

かつぎだされた「学識者」

 そして、研究所が完成してからは、大阪医科大学の3人だけではいかにも産学協同になるので、京都大学の薬学部長も務めた市川厚、当時の大阪大学教授、現在大阪府立成人病センター総長の豊島久眞男氏を加えて、5人で構成される「日本たばこ組み換えDNA実験等安全対策調査検討専門者会議」を設置しました。「懇話会」という名称はあまりにもひどいので、今度は「専門者会議」という名称にしたようです。この専門書会議の報告書別紙(省略)のように紙切れ1枚で、市の職員もこれしか持っていないのです。これを見て、住民に安心しろというものです。地方自治法で定義されているように、自治体には住民の生命や財産を守る責務があるだけです。その自治体が、これだけの規模の施設について、たった数行ほどの報告書を年に1回受け、それで安全だと判断しているのです。私は大学時代、環境工学を専攻したのですが、大学の先生から「環境を考えるときに特に大切なのは、経年変化を把握することだ」とさんざん言われました。そういう意味で医薬研究所の安全確認については、具体的かつ定量的な分析がひとつもなく、定性的なことだけで事前審査が終了し、今年も安全だったということが続けられているのです。

生命誌研究館

 もう一つの問題点として、「生命誌研究館」というのがあります。
 話がややこしいのですが、JTの医薬研究所ができてから突然、「生命誌研究館」を併設してつくるということを発表したのです。館長は岡田節人氏で、彼は京都大学のバイオ研究の先駆者です。副館長は中村桂子氏で事実上の運営責任者です。彼女がBio-historyを訳して、いわゆる「生命誌」ということを提唱しているのです。これは女性差別の裏返しで、いわゆる知的な女性が理科的な分野、しかも最先端のバイオの分野を語るからマスコミがスポットを当てているように思います。これが普通のおやじが「生命誌」といっても、オリジナルティはに「史」を「誌」にしたぐらいのものですから、おそらく、男だったらアカデミックの分野では相手にされないと思います。

中村桂子氏の役割

 中村桂子氏は、研究所に対する私たちの反対運動をこの生命誌研究館建設の反対運動にすり替えています。反対運動をしているものはバイオテクノロジーについて何も知らず、感覚的なものだけで反対しているかのように市長との対談でも述べているのです。
 この生命誌研究館は、JTの100パーセント出資の子会社として運営されています。毎月立派なリーフレットを出版し、全国の図書館に送られています。このリーフレットはすごく人気があるようです。
 また、中村桂子氏は、毎日新聞の書評の委員もやっていますし、遺伝子組み換え食品について、NHKの「クローズアップ現代」に出演して、いかにも中立的な立場にあるかのような意見を言っています。

バイオ企業としてのJT

 しかし、出資者であるJTは何をしてるかというと、「イネゲノム」、稲の遺伝子の解明に力を入れ、もうすでにアメリカの企業と提携して「遺伝子組み換えコシヒカリ」などを作っているのです。遺伝子組み換え食品の研究分野で1番日本で済んでいる企業がJTです。JTはタバコの葉の研究蓄積があり、葉の病気に耐性のあるタバコを遺伝子組み換えでつくる技術があり、それを農業部門に移行しようと戦略があるのです。
 そういうJTが生命誌研究館の親会社です。原発の谷にPR館があるように、医薬研究所の問題をカムフラージュしているものが生命誌研究といえます。

中村桂子批判の必要性

 遺伝子組み換え食品に反対する人たちからも、中村桂子氏に対して的確な批判ができないかという声も寄せられました。私も今までたびたび公開質問状を出しているのですが、彼女からはひとつも回答がありません。口先では、お手元の資料にもありますように、「反対の人がいても、自分たちがきちんとやればいい、というだけでなくむしろ『一緒に考えましょう』というつもりでいるのですが…」「今は研究だけでなく何をするにしても勝手にやっていいという時代ではないし…」と言いながら、公開質問状には回答がありません。

国策会社としてのJTの実態

 もうひとつの注目すべきことは、JTは新しい形の国策会社だということです。JTは70%大蔵省の持ち株会社です。RTRナビスコ社は海外たばこ事業の買収劇について、「日経新聞」でもJTの経営のやり方を批判しているほどです。

JTに無批判な日本のマスメディア

 アメリカでは嫌煙権運動が広がっていますが、日本ではJTは久米さんの「ニュースステーション」や筑紫さんの「ニュース23」のスポンサーになっています。反タバコとか私のようなJT相手の取り組みはマスコミでは絶対に取り上げられません。新聞でもタバコの全面広告は頻繁にあります。マスメディアの最大のスポンサーがタバコ会社というのは日本だけではないでしょうか。

薬害エイズの「ミドリ十字」の遺産を引き継ぐJT

 以前、JTが薬害エイズの張本人「ミドリ十字」を吸収合併しようという話がありました。しかし、JTが株式公開の時期と重なり、公開株価や企業イメージの問題から直接合併するのはまずいということで、「ミドリ十字」は「吉富製薬」と合併したのです。ところで、JTは吉富製薬と共同開発をしており、JTは医療関係の販路をもっていないため、吉富製薬の販路を利用しています。731部隊につながる「ミドリ十字」の負の遺産を吉富製薬を通じてJTが引き継ぐということになります。

バイオ企業に金をばらまく厚生省とJT

 もうひとつ、「生物系特定産業技術研究推進機構」についてです。私も反対運動をしていて、ようやく世の中の仕組みが少しわかってきました。旧3公社はすべて民営化しましたが、その中でもNTTとJTの持つ資産が非常に大きいのです。経営が厳しいJRはしんどい、論外です。NTTとJTの株を売却すると巨額のカネが政府に入ります。この株の売却益を資金として、NTTの方は、通産省が所轄する「最先端技術経営産業技術推進機構」を通じて、いろいろな企業に金をばらまきます。JTの方は、厚生省と農林省が所轄する「生物系特定産業技術研究推進機構」で同じことをしています。厚生省は難病対策の研究資金として金をばらまいています。腹の立つ話ですが、薬害エイズを引き起こして、今度はその研究費をばらまくのです。いろいろな企業が出資して、わけのわからない研究所をつくり、ばらまかれた研究費で運良く特許を取れたら、親会社が研究成果を持ち逃げするようなシステムになっています。時間の関係で、今回は詳しく資料の説明はできませんが、今後ぜひ、この「研究センター」の研究課題にしていただきたいと思います。


《企業、学会の巨大なネットワークに対抗できる軸に》

 時間がありませんので最後になりますが、今後のことですが、相手は凄い体制で、学会がファシズムみたいな状況です。原発の場合、極めて少数ですが、反対派の学者グループが活躍されています。しかし、バイオについては実際の研究に携わっている人の中では本庄先生や新井先生しかおられないのではないでしょうか。グループや層には全くなっていない、これが大きな問題です。また、推進側の企業のネットワークが凄いですね。そういうものに対抗できる軸を作らねばならないのです。
 午前中、慎重論も出ましたが、その問題提起はその通りだと思いました。しかし、なんとか「研究センター」を立ち上げて、中村桂子批判をするだけでも意味があると思います。
 私のように日々の運動に振り回され、なかなかアカデミックなところができないのです。課題はいろいろ見てきています。それを何とか「研究センター」でバックアップしていただきたいと思っております。



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