わくちんトーク39 抗がん剤論争ー近藤誠氏 VS 抗ガン剤専門医

    臼田篤伸 (代表幹事 インフルエンザ・風邪・ガン問題研究者)


昨年秋以降、『文藝春秋』、『週刊文春』誌上において、近藤誠氏の「抗がん剤は効かない」論文をめぐって、抗ガン剤の有効性、有害性、延命効果などについての論争が繰り広げられている。『文春』4月号の近藤誠氏の『治るガンと治らないガン』でほぼ一段落と言えそうなので、総合的な評価を加えることとした。私は大学院の専攻がガン細胞培養学であり、口腔外科の臨床で実際にガン診療にも携わった経験がある。2005年には「『抗がん剤は転移促進剤』−これからのがん治療―」(農文協)を出版し、それまでの研究成果と安保徹氏の「白血球の自律神経支配の法則」を応用して、がん転移の真実を具体的に明らかにした。これらをベースにした上で、標題について論じてみたい。紙幅の都合で要点のみ簡明に記すこととします。

近藤誠氏の先進的役割

 20年ほど前、私は同氏の「健診が病いをつくる」という雑誌記事を見てカルチャーショックを受けたのを思い出す。「地動説」と同じで、“コペルニクス的転回”とは、初めて唱えられて時はその意外性に衝撃を受けるが、時を経て冷静に分析された時にその真実を理解するようになれる。同氏が医療における数々の衝撃的事実を発表し続けた功績は計り知れない。しかしながら、巨大製薬メーカーによる厖大な宣伝力の前に、その真実がなかなか国民に浸透しないのは、近代文明のなせる不幸な状況の結果としか言いようがなく残念である。同氏の代名詞ともいえる「がんもどき」理論は明快で説得力があり、無意味というより有害な抗ガン剤治療を対抗する強力な武器といえよう。ただし、私は同氏の「がん転移論」と「免疫論の不在」には異論を持つので、別の機会に詳述することにしたい。とにかく同氏の全世界の文献読破力は群を抜くものであり、多くの国民にとって分りやすく解説がなされ、頼れる科学者と言うほかない。

●近藤氏の「抗がん剤は効かない」論旨

 論争の出発点となった『文春』誌のこの記事の要点を大きく分けて次の7点にまとめてみた。@抗ガン剤臨床試験の最重要結果・「生存曲線の人為的操作」が濃厚 A抗ガン剤投与群に手厚い身体的・精神的ケア Bメタアナリシス(総合分析して結論を導く) Cリードタイムバイアス(先行期間による偏り) D「利益相反状況」の証明 E寿命短縮効果 F標準治療は無効にすべき、となる。ただし同氏は、睾丸のガンと、子宮じゅう毛ガンを除いた固形がんについての見解であることを前置きしている。

 @抗ガン剤投与群と無治療群とを比較したグラフ(指数関数曲線)において、患者達の生存曲線は漸減し、特徴ある凹みを持つ曲線になる。ところが途中からグラフが凸形に盛り上がっている。これは指数関数曲線と違っていて、生存期間を長く見せるための何等かの人為操作なしには生じ得ないことだと同氏は指摘する。 A医師達は抗ガン剤投与の患者に少しでも長生きしてもらいたい心理が働く結果、無治療群よりも投与群の患者の方だけ身体的、精神的ケアを手厚く行う傾向がある。それによって、数ヶ月の延命効果が生まれるという。 B総合分析というと聞こえがよいが、分析する研究者が違うと同じ(複数の)試験結果を分析しても、異なった結論を導くことがよくあるとのこと。試験結果はまちまちなのに表現の程度が段々断定的となり、最後は「標準治療」に化けてしまい、それが製薬会社のパンフレットに載り、医師達の目を奪う。 Cちょっと難しい術語だが、ガンの検査法だけは格段の進歩を遂げたため、ガンがごく小さい段階で発見されるようになった。昔のように大きくなって発見されるのと違って、大きくなるまでの期間が延命期間に上乗せされる結果となり、薬の効果とみなされる。 D薬は認可されない限り莫大なお金をかけて開発しても利益を生み出すことはない。臨床試験をやる研究者と製薬会社との経済的結びつきが横行している。よって、公衆の利益に反し会社の利益を図って行動する危険性がある。これを「利益相反状況」といい、実際臨床試験に携わった専門家や医師達は会社から経済的利益を得ており、論文結果を信用する基礎にかけるというものだ。人為的操作なしには出現しない指数関数曲線が生まれる背景がここにあった。 E今話題の分子標的薬・ハーセプチンの臨床試験を取り上げ説明した。国内の認可申請用の試験で、転移性乳ガン患者18人中腫瘤完全消失(著効)1、少し小さくなったもの1という惨めな結果だったが、著効ケースが物を言って認可された。ところが内部告発によって、肺の転移病巣は消失したが、別の部位に新病変が出現・増大していたことを隠して認可申請していたことが判明した。しかし認可取り消しされていない。分子標的薬は正常組織中の分子をも攻撃してしまい、それが毒性となって現れ、寿命短縮することが考えられる。 F近年、主要医学雑誌は、著者の製薬会社との経済的結びつきを自己申告させ、当該論文に記載させるようになったという。しかし、共同研究者の自己申告欄を見ると、その申告率は大変低く、コンサルタント料を貰ったり、製薬会社の社員だったりすることがあり要注意だ。民法で規定されているように、契約や相続において、「利益相反状況にある代理人や親権者の行為は無効」という一般社会常識が通用しない新薬開発の世界のままであると言う。

●抗ガン剤専門医と国立がんセンター

中央病院・レジデント有志グループの反論

 上記近藤論文に対して、抗ガン剤専門医師らからの反論が1月20日付週刊文春に載った。反論の名義人は、国立がん研究センター中央病院・腫瘍内科医長の勝俣範之氏、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター教授・上野直人氏の二人。この二人からの取材に基づいて、ジャーナリストの鳥集(とりだまり)徹氏が執筆、構成したものである。近藤氏が一人で研究発表したのに対して、こちらはさらに若手医師団と思われるレジデントグループという格好良い名前のグループが上記二人を手助けしていて、大物の近藤氏に対抗すべく強力布陣を敷いているのが良く分る。にもかかわらず、結果的には近藤氏に木っ端微塵にされてしまった形だ。以下の顛末を見れば自ずとそれが理解できるであろう。

 まず、彼らの反論文の要旨を整理すると次のようになる。

@まず、現在使われている主な抗がん剤は再発予防や延命効果が臨床試験で実証されていると述べる。しかし裏づけとなる具体的で正当な根拠を示す論文がないと、近藤氏が反論している。Aこれらの薬は世界中の国の「標準治療」になっているという。そのおかげで昔では考えられないほど延命する患者が増えたとのこと。そのあとに、ただし、抗がん剤の効果は「寿命が延びているかどうか」だけでは判断できないと、言い訳が続く。おそらくガンの死亡者数が増え続けていることとの矛盾を説明できないからであろう。B抗がん剤の重要な役目として、近藤氏が言うように、「延命を図ることだけが抗がん剤の目的ではなく、例えば、ガンの増悪を防いで症状の悪化を抑える、つまり緩和ケアの一環として患者の生活の質を維持するのに抗がん剤が役に立つことも多い」と述べる。また、手術後の転移を防ぐ補助療法としても役立つとも言う。これも科学的に証明されているというが、データが示されていない。C近藤氏の「延命させる力はない」の言い方は間違いだが、延命効果が短いというならば、場合によっては当てはまるという。統計的にみて、抗がん剤の延命効果はものによっては数ヶ月である。が、これを長いと見るか、短いとみるかは人それぞれと述べる。抗がん剤の副作用も人それぞれという。だが、数年前に比べ、副作用は大幅に減ったと主張する。その上で、「抗がん剤が効くどころか、そのために命を縮めてしまった患者もいる」と認めている。D抗がん剤を投与する専門医の少なさを指摘する。抗がん剤自体の問題ではなく、日本のガン医療体制の問題だと逃げている。つまり、抗がん剤のテクニシャンが少ないということだろう。抗がん剤は、専門医の腕、つまり名人芸的な要素が多分にあるように見受けられる。E最後は一番の問題、有効性のない臨床試験結果を人為的操作によって、有効性を導き出しているとの指摘は、事実ならば、薬事法に違反する重大スキャンダルだ。近藤氏は事実関係を明らかにして、告発すべきと言っている。臨床試験はそんなに甘くはないという。以上が大雑把な抗がん剤推進医師の発言の主旨である。言いたいことはわかるが、根拠が示されておらず、主観的、可能性・希望的側面のウエートが大きいと言えよう。近藤氏に“告発すべし”とは、一人で研究と論文発表をしている同氏には酷である。国立の機関でかつ、多くの部下に役割分担させている勝俣氏にそれを言う資格はないだろう。

●近藤氏の再反論

抗がん剤治療の現状が国民の目線からしても、ガンを治して延命が図られていないのは明らかなので、抗がん剤専門医たちの上記のような反論が漠然とし、抽象的で迫力がないのは自明のこととなろう。ガンで死ぬ人が一向に減らないのが何よりの証拠だろう。よって、近藤氏の再反論によって彼ら腫瘍内科医の弱点が曝け出された格好だ。結果として、世界的にも卓越した近藤氏の文献探索力と考察力を余すことなく発揮する場を、図らずも彼らが与えてしまったようだ。以下、4項目に的を絞って近藤氏の理論を拝見しよう。

 @まず、腫瘍内科医らのグループとジャーナリストによって近藤理論への反論がなされているために、反論記事の責任主体が不明である。中身の発言が、誰によるものなのかさっぱりわからない。文責者名を明示するのがこの種の論争のマナーだ。そうしないと、内容が間違っていた場合、「俺だ、お前だ、ライターだ」と責任転嫁が始まるからだと、近藤氏はまず指摘する。A近藤氏の「抗がん剤は余り進歩してないのに標準治療に格上げされた」との記述は、同氏が最近の抗ガン剤が進歩を見誤っているかの言い回しだが、そんなことはなく、全て知り尽くしている。言いたいことは、「細胞毒である薬剤ばかり開発していて、従来の抗がん剤と大同小異」と言ったまでのこと、と。B最後に最大の争点となった生存曲線の問題だ。生存曲線が、指数関数曲線と異なる場合は、データを人為的に操作しなければ起こりえない現象と近藤氏は断言する。数百、数千の論文を見て到達した命題と言う。ところが、製薬会社とのかかわりが深い臨床試験は、生存曲線が指数関数曲線とは異なる形なので、若い医師らが、それが普通だと思い込んでしまうのではないかと同氏は推測する。実際、被験者総数の僅か510l程度のデータを操作するだけで、無効であるはずの生存曲線が「有効」に転化すると言うから恐ろしいことだ。因みにこれはインフル薬タミフルの異常行動隠蔽のために厚労省研究班によって実際に行なわれた。

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