遺伝子組み換え微生物(GMMs)が実験施設から漏れるって本当?

ジーンウォッチ編

 

訳者まえがき

 

 ここに翻訳して紹介するのは、英国の市民団体の”Gene Watch”(文字通りには「遺伝子監視」の意味)のホームページに掲載されている”Genetically modified microorganisms : Leaking from the lab ?”と題する小論である。訳者は、すでに本庄重男当センター代表との共訳で『技術と人間』(200312月号〜200410月号)誌上にこれと同じタイトルの小冊子を翻訳掲載した。この小論は言わばそのダイジェスト版であると言ってよい。そのなかでは、遺伝子組換え微生物(GMMs)がそれを扱うバイオ実験施設から漏れていることとその根拠ならびにそれに対する安全対策が要領よくまとめられており、バイオテクノロジーの危険性にも触れられている。

 

ところで、GMMsについての議論は、当然同じく微生物であるウィルスや細菌などの病原体についても当てはまる。したがって、これを読めば、人口密集地の新宿区に立地している国立感染症研究所をはじめとする病原体実験施設が周辺住民や環境へ悪影響を及ぼす可能性のある危険な存在であることが理解できるだろう。たしかにこれらの実験施設は病原体等の漏洩防止のための設備や職員の研修などハードやソフト面で安全対策を講じている。しかし、設備そのものが完全でないこと、人為的ミスが避けられないこと、管理者の怠慢による安全対策の不備という事態がしばしば発生することなどがこの小論の中で事実を持って示されている。

 

わが国でも今年、遺伝子組換え実験に対する規制が法制化されたが、その規制は従来のガイドラインによるものより簡素化され、しかも規制への市民参加が全く排除されているので法規制の実効性は疑わしい。しかも、バイオハザード対策のための法整備が最も進んでいる英国でさえ法律に違反した研究所が少なくないことがこの小論で明らかにされている。こうしたことからすれば、最終的には、市民による監視しかバイオハザードを予防する手立ては無いのかということになる。この点で、当センターを始めとする市民団体の役割はさらに重要となってくると思われる。

 

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 作物と食品の遺伝子工学は最近数年間に論争問題となり、人々の関心も高い。しかし、遺伝子工学は他の分野でも使用されており、そのなかには他と比べてそれほど注目されてこなかったものもある。そのうちの一つは、遺伝子組み換え微生物(GMMs)―例えば、細菌、酵母菌、菌類、ウィルス等―の使用であり、公立や民間の研究所だけでなく、商業目的の生産施設においてもGMMsは使用されている。このような使われ方は、遺伝子組み換え生物(GMO)が意図的に環境へ放出される類いの使われ方(例えば、農作物の生産)と区別するために、「封じ込め使用」と呼ばれている。

 

 しかし、封じ込め使用のGMMsでも封じ込め施設が倒壊(火災や地震による―訳者)した場合や、使用中のGMMが「安全だ」とみなされた場合には、日常的に環境へ排出されている。そのような排出に対する監視も取り締まりもなく、またGMMそのものを含まなくてもGMMsを使用して作られた製品にその旨を表示することを要求する規制条項もない。この小論は、英国でのGMMs使用についての既知の事柄ならびに現在の安全確保のためのシステムが十分であるかどうかを検討するものである。

 

英国におけるGMMsの使用 

 

 英国にはGMMsを使用している施設は約500あるが、正確な数は知られていない。というのは、1992年の封じ込め使用規則の施行以前は、こうした施設の数に関する情報は公的登録簿には含まれていなかったからである。

 

 小規模のGMMsの使用は主として医学や他の科学の研究のためのものである。必然的に、GMMsを用いた研究の大多数は―商業上の施設でも公立の施設でも―ヒトの病気について行われており、加えて家畜の病気について僅かの研究が行われている。これらの研究は非常に様々であるが、それには以下のものが含まれている。

 

     病原微生物がどのようにして病気を引き起こすかをよりよく理解するための、またはワクチンを開発するための、病原微生物の遺伝子組み換え。

 

     病気の進行する過程、病気への罹りやすさ及び病気への抵抗性を理解するためのヒトまたは動物の細胞の遺伝子組み換え。

 

 工場の研究室では、化学薬品や医薬品の生産が重要な研究分野になっており、それには次のようなものが含まれている。

 

GMM医薬品製造工程(例えば、ワースィングにあるスミス・クラウン・ビーチャム製薬会社;オックスフォードにある英国バイオテクノロジー社;ケンブリッヂにあるカイロ・サイエンス社;ウェストモーリングにあるジェンザイム社)

 

・ワクチン製造(例えば、スペクにあるメテヴァグループ研究会社)

 

・診断薬(例えば、カーディフにあるアマーシャム・インターナショナル社)

 

 GMMsを使用して既に商業的に生産されている製品の種類には、食品加工のための酵素や、合成洗剤(例えば、キモシン)、食品添加物及び医薬品(例えば、インスリン)がある。

 

GMMs放出のリスク

 

 GMMsは幾つかの仕方で害をもたらす。まず第一に、GMMsは、人間や動物に対する病原性を持っている[病気を引き起こす能力がある]と、それを使って作業をする人々に病気を引き起こす可能性がある。また、GMMsが実験施設から漏出した場合には、広い範囲で多くの人々に病気を引き起こす可能性もある。第二に、GMMsは環境内で生存し、自然界の微生物の生態系を撹乱する。もしGMMsがある種の産物(例えば、酵素や抗生物質等)を作り続けるならば、周辺環境中の生物に直接悪影響を与えることになるだろう。第三に、GMMに導入されているDNAが他の生物種に伝達して、それらを予測できない仕方で変えてしまうだろう。死んだ細胞由来のDNAが生きた細胞に取り込まれることもあるから、いわゆる「裸のDNA」(細胞内に含まれていないDNA)でさえもそれを取り込んだ細胞に影響を与える潜在能力を保持しているのだ。

 

 封じ込め施設で使用されるGMMsの多くは、数世代にわたって実験施設内で育成されており、理論上は自然環境内で生存する能力を失っているか、または特定の遺伝子配列を挿入または削除されて生存能力が弱められている。ところが、これらの能力を失ったかまたは弱められた生物(例えば、遺伝子組み換え実験で最も普通に使用されている生物の一つであるE.coli K12[大腸菌の一種])は実験施設外でも生存し得る(ただし、生存の期間は生物や環境に関連する様々な諸要因によるけれども)という証拠がある。例えば、実験動物の腸内で、遺伝子組み換えされたものを含めて様々なE.coli K12 株が7〜14日間まで生存したが、腸内に定着した様子はなかった。

 

リスクアセスメントに関する保健安全局(HSE)の指針によれば、E.coli K12は外的環境内で7日間生存することができる。しかし、他の研究の示すところでは、これはある状況においては過小評価であるかもしれない。ただし、おそらく実験条件が異なることと関係するのだろうが、生存期間は研究ごとに大きなバラツキがある。例えば、汚泥のたまる小さな排水溝内のE.coli K1212日間は検出できなかったが、その後「再び姿を現した。」他の研究では、遺伝子組み換えされたE.coli K12株は殺菌されていない沈泥ローム土壌内では少なくとも35日間生存したことが示された。対照的に、他の研究では、BST(牛成長ホルモン)を産生するE.coli K12株は56日間で下水の汚泥から除去された。

 

 GMMsは水、土壌、空気中で生存することができるだけでなく、土壌中の生きている生物に摂取されることもある。実験の示すところでは、遺伝子組み換え細菌の シュウドモナス・フルオレスンスはオクトラシオン・シアニュウムというミミズとポルセリノ・スケーバーというワラジムシの腸内で生存し、増殖することができた。これらの土壌生物はまた他の生物に食べられるので、GMMsは食物網を通じて伝達する可能性がある。

 

 GMMsは、たとえ環境内に長期間定着しなくても、それらの持つ外来遺伝物質(外来DNAまたは遺伝子のこと―訳者)を他の生物に伝達することができる。さらには定着能力を他の生物から獲得することも可能である。生物間のこのような遺伝物質の伝達は「(遺伝子の)水平伝達」と呼び、ある世代から次の世代への垂直伝達と区別している。過去20年間のあいだに遺伝子伝達に関する文献資料が急増している。これらの文献は、抗生物質耐性がさまざまな仕方で細菌の種の間に広がってきたことを示して自説を補強しながら、遺伝子の伝達がきわめて重要で影響力のある過程であるとの印象を与えている。(訳者注―筆者は、例えば、除草剤耐性や病害虫抵抗性の遺伝子を持つ細菌を導入された遺伝子組み換え植物から抗生物質耐性遺伝子―マーカー遺伝子―が遺伝子の水平伝達によって土壌細菌に伝達し、その細菌に抗生物質耐性を与える可能性を念頭においている。)

 

遺伝子の水平伝達が起きるメカニズムは以下に示すように3種類ある。

 

・形質転換:「裸の」DNAを環境から取り込み、それを細菌のゲノムへ組み込むこと。形質転換が水域環境や陸上の環境の双方で発生し得ることは証拠が示すところである。このような形質転換は発生する頻度が低く、そのためにその発生は検知されにくいかもしれない。けれども、数々の発見から、ある生物に生存能力がないからといって、その生物の遺伝物質が他の種に伝達することはありえないということにはならないことは明らかである。

 

・接合:細胞同士の接触に引き続き、プラスミドやトランスポゾンの働きを介して行われる細胞間のDNAの伝達。GMMsの生産のための安全な方法のうち最も重要なのは、遺伝子伝達のメカニズムに欠損があり、かつ宿主域が限られているプラスミドを使用することである。しかし、そのようなプラスミドやトランスポゾンは他の生物から遺伝子伝達能を獲得し得ることが研究で判明し、その結果、「安全なプラスミドというようなものは一つもない」という主張が生まれた。

 

・形質導入:バクテリオファージ(細菌に感染するウィルス)の働きによるある細菌から別の細菌への遺伝物質の伝達。環境中に多数のファージが存在するという証拠はあるけれども、外環境における形質導入の頻度に関するデータは少なく、そのためGMMsにとっての形質導入の重要性は評価するのが難しい。

 

 GMMs内に安全な機構を組み入れることはできるけれども、それは決して絶対に安全とは言えない。そして、GMMが封じ込めから漏れた場合に及ぼす影響はまさに挿入された外来DNAの性質そのものに依存する。特に憂慮される事態には次のものが含まれる。

 

・抗生物質耐性のマーカー遺伝子の使用:これは、遺伝子組み換えがうまく行われた否かを同定する方法としてごく普通に行われている方法である。抗生物質耐性遺伝子を持つGMMsの放出は、もしその遺伝子が他の生物に伝達されると現在の薬剤耐性疾患に関する問題を悪化させる可能性がある。このような遺伝子は自然界に偏在するけれども、GMMsの放出の規模、場所及び特徴によりリスクが増大する潜在的可能性がある。

 

・微生物が感染する宿主域を変えたり、遺伝子が環境中の他の生物に伝達されてその微生物の病原性を増したりすることを可能にする遺伝子伝達:エルシニア属の仮性結核菌からE.coli K12株へ伝達されたある単一の遺伝子は、それによってE.coli K12株が培養液内の哺乳動物の細胞に侵入することを可能にした。おそらく、様々な毒性遺伝子を含むDNAがまとまっている区域、いわゆる「病原性の島」は伝達が可能である。

 

・自然状態では外来DNAを拒絶する微生物への外来DNAの伝達を容易にするベクタ―(遺伝子組み換えで用いられるプラスミド、トランスポゾン及びファージ)からの遺伝子の導入:自然状態の微生物内では、ある種の酵素が外来DNAを認識し、それを切断して、それがその微生物内に組み込まれないようにしている。しかし、このような防御体制を乗り越えることのできる遺伝子及び遺伝子配列を用いることによって、遺伝子伝達の頻度は増大し、有害な影響をより起こりやすくするのではないかという不安が生じる。

 

安全規則

 

 現在の英国の規則は、EUの封じ込め使用の指令(90/219EEC)を実施し、GMMsが環境へ漏れるのを防ぐ程度(その封じ込めレベル)を定めている。同規則は、GMMの使用の規模(A類であるかB類であるか)とともに、GMMが人間の健康と環境に与えるリスクが高いか低いかどうかに関する評価に基づいている。

 

 封じ込めレベルを確定するためのリスク評価の部類は次の4段階に分かれている。

 

 TA 低リスク、小規模(通例は研究)―例えば、大学の実験室でのE.coli K12株の使用。

 

 TB 低リスク、大規模(通例は工業生産用)―例えば、医薬品の牛成長ホルモン(BST)を生産するための発酵槽内でのE.coli K12株の使用。

 

 UA 高リスク、小規模―例えば、大学や企業の実験室でのインフルエンザウィルスのような潜在力のある病原体の使用。

 

 UB 高リスク、大規模―例えば、医薬品を生産するための潜在力のある病原体の使用(注意―現在英国にはこの部類に属するものは一つもない)。

 

 1992年以来、T類の作業には275の施設が登録されており(そのうちの34施設は大規

模作業の申請を届け出た)、U類の作業には196の施設が登録されている。いったんT類の

施設として登録されれば、使用者が引き続き他のGMMsの使用を行っても、使用者がその

使用もまた低リスクであると判断するかぎりは、その使用をHSEに通知しなければならな

いという条項はない。しかし、HSEの見積もりでは、毎年GMMsを使用する新たな5,500

のプロジェクトが行われ、そのうちの90〜95%がTAに属している。

 

GMMsのリスクアセスメントは安全規則の実施にとって決定的に重要であるが、これは

主として使用者の責任であり、また使用者の行う評価がHSEによって精査されることはめったにない。しかし、英国の所轄当局として、HSEGMM使用施設の査察を行うが、割り当てられている時間の点から見て、一人あたり約500の施設しか訪問できない。つまり、範囲と頻度は限られているのである。そうでありながらも、HSEは、1992年以来、7ヶ所の研究所と大学に対して安全対策の違反のゆえに処分を行った。(表1を参照)

1:封じ込め規則を遵守しない施設対してHSEが行った処分

日付

GM施設

法律違反

実施行動

 

199311

 

国立医学研究所

封じ込めレベル3に対するアセスメントの実施とその書面の作成を怠ったこと

改善通知

 

199312

 

 

バーミンガム大学

不十分なリスクアセスメント及び封じ込めレベル2の必要条件を満たさない封じ込め施設の使用

 

禁止通知

19947

キングズカレッジ医歯学校

作業手順及び封じ込めレベル3の作業に使用される施設の欠陥

自発的な作業の停止

3つの改善通告

 

 

19956

 

 

 

 

ロンドンの衛生熱帯医学校

不十分なリスクアセスメント、U群の作業の届け出を怠ったこと及び作業手順と封じ込めレベル3の作業に使用される施設の欠陥

改善通告、完全な届け出が行われるまで提案された作業は行うべきではないという自発的な同意

 

1996年2月

 

 

動物衛生研究所パーブライト

 

リスクアセスメントの不適切、

U類研究計画多数を告示せず

改善注意、告示が完全に行われるまで提案中の研究を実施しないとの自発的合意

 

19987

 

 

エジンバラ大学

リスクアセスメントを行うことまたはGM安全委員会の会合を開くことを怠ったこと

 

改善通告

 

19987

ロンドンのユニバーシティカレッジ

HIVウィルスに関する封じ込めレベル3のプロジェクトの届け出を怠ったこと

 

改善通告

 

19992

 

エジンバラ大学

改善通告に対応し、リスクアセスメントを行うことを怠ったこと

起訴及び罰金3,500ポンド

























































封じ込め指令による規制の対象となるGMMsの使用者は全て、「一般住民と環境との接触を制限する」法的な責任を有する。これは物理学的、生物学的及び化学的封じ込め対策の組み合わせを通じて行われる。物理学的封じ込めは、空気濾過システム、予防衣及び薫  燻蒸消毒を含み、GMMの物理的漏出を防ぐために施設並びにその敷地を隔離することである。生物学的封じ込めは、GMMsが漏れても、それの生存能力や病気その他の害を引き起こす能力を減少させるように生物を変化させることを意味する。化学的封じ込めは、作業表面を清潔にするための消毒剤の使用、実験室の燻蒸消毒、並びに生産システムで使用された微生物を殺すために化学物質を使用する化学的「殺菌槽」を含む。

 

GMMsの環境内への放出

 

 HSEは、その経験から、大規模施設は全てのGMMsを処分前に日常的に不活化していると言ってきた。しかし、GMMsが「安全である」とみなされ、環境内で生存する能力は限られていると考えられる(T類の生物)場合でも全ての生物を殺すことを定める法的な規制条項は一つもない。したがって、生存微生物は、それが使用されている産業用ならびに研究用施設から廃棄物の形で環境内に入っていくことになる。研究施設からの廃棄物は、焼却のような方法による処分の前にオートクレーブで熱処理されるかまたは化学的に処理されるけれども、これを定める規制条項はなく、またこれが行われていることを確認する独立した手立ても全くない。

 

 企業はGMMsの使用を登録するためにHSEに申請するに際して、以下に示すように、廃棄物が不活化されていると主張しながらも、放出は起きることを認めた。

 

1993年の大規模使用の届け出に際して、ベリンガムにあるゼネカバイオプロダクト社は、キシラナーゼという酵素を産生する遺伝子組換えE.coli K12株をミリリットルあたり10の4乗〜10の6乗(1万〜100万)個を放出することを想定していた。同社が行った環境リスクアセスメントによると、このGMMsは「陸上の研究及び生産の場所、排水・下水処理システム」に放出されると予想されていた。

 

・ベリンガムにあるゼネカバイオプロダクト社は、1993年に行われた大規模使用のもう一つ別の届け出では、ヒトの血清アルブミンを産生する組換え酵母菌のエス・セレビザエを廃液ミリリットルあたり約100個にまで減少させる処理が可能であると予想した。

 

1994年の大規模使用の届け出に際して、エアーシアのアーバインにあるスミスクライン・ビーチャム製薬会社は、組換えペニシリンのクリソゲヌムは排気や廃液から「めったに」放出されないことを認めた。排気試料の採取は毎週実施されている。

 

・様々な届け出に際して、ウェストサセックスのワーシングにあるスミスクライン・ビーチャム製薬会社は、同社の施設で使用されているGMMsは商業上の秘密のために同社が公開を拒んでいるある方法を用いた処理により殺菌されているので、それらのGMMsの放出の可能性は「低い」だろうと主張している。

 

環境中でGMMsがどのように挙動するかに関する知識がないにもかかわらず、HSEは、日常的な独自のモニタリングを行うことを定めた条項が規則にないため、そのようなモニタリングを実行したことがなかった。放出が許可されるGMMsの数の制限は設定されておらず、また排出の取り締まりも行われていない。 

 

規則の改訂

 

 199512月に、産業界からの大きな圧力があった後、欧州委員会は1990年の封じ込め使用に関する指令を改訂することを決めた。産業界は、安全条項はヨーロッパの企業を不利な状況に置くことになると主張して、同指令は簡素化され、認可はより緩やかにする必要があると唱えた。

 

 改訂指令は現在では合意に達しており、200065日までに施行されなければならない。従って、HSEは最近、英国の規則がどのように改正されるべきかを決定するための専門家協議を開始した。欧州指令は最低限の基準を設定するものであるので、構成国はより厳しい規則を導入できる。しかし、提案された新しい規則で特に挙げることのできる主な利益は「…GMOsを使用する施設の費用削減になると予想されていること」である。同時に、全体として規則が緩和されているので、人間の健康と環境にとっての利益ほとんど無くなるだろう。とりわけ、欧州指令が最大限の放出制限を賦課していないことと放出のモニタリング条項を決めていないことは、GMMsの大規模放出が日常的になり得ることを意味している。

 

結 論

 

 困ったことに、GMMsがどこで偶発的にまたは意図的に放出されているかとか、どんな製品がGMMsから開発されているかといったGMMs使用についての全体像は全く明らかではない。GMMsを使用する施設はHSEに登録されているが、いったん登録されれば、低リスクのグループTに属するGMMsしか使用していないと使用者が考えているかぎり、新たな使用を行っていてもHSEに通知する必要はないのだ。

 

 現在の安全規則は、GMMsについての正確なリスクアセスメントの分類が決定されているとすることに基づいている。つまり、GMMsの健康と環境への影響の評価はかなり不確かさがあるにもかかわらず、政府内や規制官僚の間に定着している見方は、相変わらずリスクの分類は正確かつ適正であるというもののようである。安全性に関するこのようなかなり自己満足的で非科学的な考え方が原因となってGMMsの放出に関する精密な調査が欠けることとなったようである。

 

 独立したモニタリング(監視)が行われていないことが現在の状況の最も際立って明らかな欠陥である。例えば、工場からの化学物質の排出の規制とは対照的に、使用者、HSE及び環境庁が放出を監視するための規制条項は全く存在しない。このようなモニタリング(監視)の欠如を正当化するために、しばしば循環論法が用いられている。つまり、生物は「安全」なのだから、それを監視する必要はないという具合に。しかし、これは、GMMが安全であるという元々の仮定を疑問とするデータは決して集められないのだという意味である(だから監視する必要などないという議論[循環論法]になる―訳者)。

 モニタリング(監視)は簡単ではなく、幾つかの方法の組み合わせが必要であるが、このことは全く監視をしないことよりもこれらの監視方法の組み合わせの開発への投資を促すことになる。例えば、産業界が非組換えの[実際には組み換えを用いているが消費者には組み換えと分からない]食品成分を必要とした結果、特定のDNA配列に対する感度の高い検査が急速に行われるようになった。また、アメリカ軍は、生物兵器の使用に憂慮して[その対策として]、微生物に対する感度の高い検査法を開発している。このような訳で封じ込め使用の監視のための検査法が開発できない理由はない。また信頼できるモニタリングシステムが確立するまでは、GMMsの日常的な排出は考えることすらすべきではない。

 

 また、取り締まりと法律ないしは規則の執行には、不履行水準をゼロに設定したGMMs放出基準と放出制限を含めるべきである。これは英国での汚染規制に向けた標準的な取り組みであるだけでなく、デンマークでも実施されている。そして、万一GMMs放出が制限を越えた場合には、起訴することも可能だという付随的な長所がある。GMMsは生き物であるから、いったん有害な影響がはっきりと現れれば、過ちを訂正しようがない。それゆえ、健康と環境に対して取り返しのつかない害をあたえることを避けるために予防的な取り組みが絶対に必要である。

(長島 功訳)

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