総合科学技術会議のライフサイエンスPTの中間報告について

〜BSL−4施設の稼動と新設の必要性をめぐって〜

 

バイオハザード予防市民センター

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 去る2008313日に開かれた総合科学技術会議(内閣府)のライフサイエンスPT(プロジェクトチーム)の第9回会合で、平成18年度の補完的課題「高度安全実験(BSL−4)施設を必要とする新興感染症対策に関する調査研究」の中間報告が出された。そこで、ここに中間報告の概要とそれに対する当センターの見解を発表する。

 

(1)中間報告の概要

 中間報告は、その副題―“日本の感染症対策および感染症研究の体制構築の一環としてのBSL−4施設建設の緊急性”―から察せられるように、最近の新興感染症の発生に対する対策とバイオテロ対処の必要性から日本でもBSL−4施設の稼動と新設が必要であると提言している。

 中間報告は、新興・再興感染症連携施策群の目標として、

@        ワクチン等の開発や、迅速診断などの基盤技術の開発の推進

A        野生動物・昆虫における病原巣のサーベイランスを行う研究体制の強化

B        発生国等、海外と国内研究拠点との連携強化

C        多目的な共同実験型の高度安全実験(BSL−4、バイオ・セーフティ・レベル4)施設の整備についての検討

D        感染症研究の人材育成

を挙げ、その実施を求めている。

 中間報告ではこれらの目標のうち特にCを取り上げ、以下のように述べている。@2001年の米国でのバイオテロ以降BSL−4病原体の診断研究における米国の全面的な協力の道が閉ざされ、加えて、アジア・アフリカで発生している最もリスクの高い病原体に対する感染症対策が、わが国にはBSL−4施設が稼動していないためにできない状況にある。ところが、A世界には、先進国のみでなく、インド、ガボン等の第3世界の諸国を含む十数カ国に30以上のBSL−4施設が整備されている。B日本には、国立感染研の村山庁舎にBSL−4施設が設置されているが、地元市議会等の反対で25年間稼動できないでいる。新しい感染症の登場やバイオテロの発生という世界情勢の下ではBSL−4施設の稼動なしに感染症対策は考えられない。一方、C感染症の確定診断のために村山庁舎の稼動が必要であるが、それだけでは十分ではなく、ワクチンの開発研究ができる新しいBSL−4施設が必要になってきている。Dこのような中、本課題では4つのサブグループからなる専門家集団の活動により、新設されるべきBSL−4施設の理想状況が纏まりつつある。

 以上をまとめて、中間報告は本課題の要点を「確定診断に特化された既存のBSL−4施設のみでなく、病原体の基礎研究・動物を用いた治療法やワクチン開発研究ができる新しいBSL−4施設が必要不可欠である」と纏めている。

 

(2)当センターの見解

 BSL−4施設の稼動・設置に関する当センターの基本的な考えはすでに「我が国におけるP4施設の設置に関する当センターの見解」の中で述べられているのでそれを参照して欲しいが、今回の中間報告では具体的な提案がなされているので、それについての見解を明らかにしたい。

 第1に中間報告は、国立感染症研究所村山庁舎のBSL−4施設を稼動させることを提言しているが、それには反対である。というのは、当施設は住宅地のど真ん中にあり、周囲には学校等の公共施設がある。施設を稼動し、実験を行えば、事故や火災・地震などの災害時はいうまでもなく日常的にも危険な病原体が施設外に漏出する可能性と危険性は排除できない。そうなれば、近隣住民が現実に感染する可能性があるばかりでなく、毎日感染する不安に悩まされて生活せざるを得ない。このように住民に現実的に被害を与える可能性があるだけでなく、住民を精神的な不安状態に陥れることが確実である以上、当施設は稼動させるべきではない。

また、法的な観点から言えば、わが国にはバイオハザード予防を目的とした病原体等実験施設に関する法令が存在しないが、そのような場合には、WHOの指針に従うべきであるとWHO総会の決議で定められている。高度封じ込め(安全)実験施設(BSL−4施設)に関しては、”Safety in Health-care Laboratories”1997, WHO)が、「高度封じ込め実験施設かまたは危険度の高い実験施設は患者や公衆のいる地域と往来の激しい道路とから離れて立地しなければならない。」(p.16)と勧告している。以上のように、法的な観点からしても、感染研の村山庁舎のBSL−4施設の稼動は問題があり、反対である。

 第2に、中間報告は、動物を用いる治療法の研究やワクチン開発ができる新しいBSL−4施設の建設を提言している。当センターはこのような施設の必要性に反対はしないが、中間報告が設定した立地条件には問題がある。中間報告によると、新しいBSL−4施設の立地条件は次の2点であるという。

@        大学等研究施設が周辺にあり、科学的基盤が整備されている地域

A        交通が至便で他施設との連携可能な地域

このような立地条件の設定は、もっぱら研究者の研究の利便性の立場からなされており、周辺住民の生命の安全と安心が全く考慮されていない。少なくとも前掲のWHOの指針の規定する立地条件を考慮すべきである。立地に適した具体的な場所としては、孤島、人工島等が考えられる。(この場合、職員の通勤手段(職員運搬専用の船舶やヘリコプター等)を保証することが必要であることは言うまでもない。)このような好立地条件の場所を選定する研究を行う必要がある。 

 第3に、中間報告は、BSL−4施設の稼動と新設に際しては「国民、地域住民、マスコミの理解、サポートを得る」ためのリスクコミュニケーションの必要性を認め、そのための研究を行うこととしている。当センターは、基本的には施設管理(計画)者と地域住民との間のリスクコミュニケーションの必要性を認めている。ただし、病原体等実験施設を含むバイオ施設の稼動・新設に際しては、施設計画者の情報公開、環境影響評価の実施、住民合意の原則の前提の下ではじめて真のリスクコミュニケーションを図ることができると当センターは考える。したがって、住民に一方的に理解を求めるだけではなく、住民を対等な当事者と認め、彼らの意見を計画に反映させる(計画の廃止を含めて)リスクコミュニケーションこそが求められると考える。

 

【参考文献】

 

1.「高度安全実験(BSL−4)施設を必要とする新興感染症対策に関する調査研究」中間報告(資料2−1)

http://www8.cao.go.jp/cstp/project/bunyabetu2006/life/9kai/siryo2-1.pdf

 

2.「高度安全実験(BSL−4)施設を必要とする新興感染症対策に関する調査研究」中間報告(資料2−2)

http://www8.cao.go.jp/cstp/project/bunyabetu2006/life/9kai/siryo2-2.pdf

 

3.我が国におけるP4施設の設置に関する当センターの見解

  http://homepage2.nifty.com/bio-anzenken/

 

4.Safety in Health-care Laboratories, 1997, WHO

 

2008621日)