カルタヘナ法におけるP3実験室の排気の処理の仕方について

長島 功(バイオハザード予防市民センター事務局長)

 「遺伝子組み換え生物等規制法」(通称「カルタヘナ法」)では、省令において拡散防止措置(いわゆる封じ込め措置)が旧指針に比べて緩和された。その中でも、特に重大な緩和項目は、P3実験室からの排気の「濾過その他の処理」の規定がなくなり、HEPAフィルターで濾過されない排気は実験室及び同じ建物の他の部屋への再循環を禁ずる規定に変更になった。川本幹事が「隣接建物などでの再利用の可能性があっても濾過しなくてよいということか。」(『「遺伝子組換え生物等規制法」で遺伝子組換え実験の安全性は強化されたのか?〜主に閉鎖系実験室の拡散防止策の観点から〜』川本 幸立「ニュースレター第30号、20052月」)と述べているのは当然である。

このようなP3実験室からの廃棄処理の仕方は、WHO指針に違反するのではないかと考え、最新の(第3版)のWHO指針”Laboratory Biosafety Manual,2004”を調べてみると第2版の規定に比べて緩和されていることがわかった。そこで、以下ではWHO指針の第2版と第3版ならびに米国の最新のNIHのガイドラインにおけるP3実験室の排気処理に関する規定を比較してみよう。

@     最新のWHO指針―”Laboratory Biosafety Manual,2004”p.21

“When exhaust air from the laboratory (other than from biological safety cabinets) is discharged to the outside of the building, it must be dispersed away from occupied buildings and air intakes. Depending on the agents in use, this air [= exhaust air from the containment laboratory] may be discharged through HEPA filters.

(日本語訳)

「(BSL3)実験室から(安全キャビネット以外からの)排気を建物の外に排出する場合には、内部に人間の居る建物および空気取り入れ口から離れたところに拡散するようにしなくてはならない。使用する病原体にもよるが、(BSL3)実験室の排気はHEPAフィルターを通して、排出して差し支えない。(『実験室バイオセーフティ指針』(WHO3版)、バイオメディカルサイエンス研究会訳、200611月)

A     WHO指針第2版―”Laboratory Biosafety Manual,1993”pp.20-21

“Exhaust air from the laboratory (other than biological safety cabinets) must be discharged directly to the outside of the building so that it is dispersed away from occupied buildings and air intakes. It is recommended that this air is discharged through high-efficiency particulate air (HEPA) filters (see page 82)

(日本語訳)

「(BSL3)実験室から(安全キャビネット以外からの)排気は、内部に人の居る建物および空気取り入れ口から離れたところに拡散するように、直接建物の外に排出しなければならない。BSL3)実験室からの排気は高性能粒子捕捉(HEPA)フィルターを通して排出することを勧める。(82ページ参照―同ページには、HEPAフィルターの標準的な性能として、10万個の粒子のうち4個以上の粒子を通過させない捕捉能力が求められている。

B     NIHのガイドライン―”NIH Guidelines, March 2002

http://www4.od.nih.gov/oba/rac/guidelines_02/NIH_Gdlnes_lnk_2002z.pdf

Appendix G-II-C-4-i. A ducted exhaust air ventilation system is provided. The exhaust air is not recirculated to any other area of the building, is discharged to the outside, and is dispersed away from the occupied areas and air intakes. Personnel shall verify that the direction of the airflow (into the laboratory) is proper. The exhaust air from the laboratory room may be discharged to the outside without being filtered or otherwise treated.

(日本語訳)

付録―G-U-C-4-i ダクトを有する排気換気システムを装備する。排気は建物の他のどの区域にも再循環させず、直接外に排出して、人の居る地域や空気取り入れ口から離れて拡散する。職員は(P3実験室内への)空気の流れの方向が適切であることを確認しなければならない。P3)実験室からの排気は、排出の際にはフィルターで濾過しなくてもまた他の処理を施さなくてもよい。

 ご覧のように、WHO指針の第2版では、P3実験室からの排気は、10万個に4個以上の粒子を捕捉するHEPAフィルターを通してから、室外に排出することが勧められているが、第3版では、P3実験室からの排気は、使用する病原体の種類によって、フィールターを通しても通さなくてもよいと緩和された。これは、第3版のWHO指針が米国のCDC(疾病対策センター)の編集になるものであるからと考えられる。つまり、世界の保健政策が米国に牛耳られることになったわけである。実際のところ、P3実験室の排気処理に関するNIHのガイドラインの規定は、WHO指針第3版の抽象的な規定を具体化して述べている。すなわち、WHO指針の第3版の規定は「(BSL3)実験室からの排気は、実験で使用している病原体の種類によって、フィルターで濾過してもしなくてもよい」と理解してよいということになる。

したがって、P3実験室からの排気の処理の規定を行わなかった前述のカルタヘナ法は、緩和されたWHO指針第3版にも違反している。なぜなら、WHO指針は、may という助動詞を用いることによって、排気をフィルターに通す可能性は少なくとも50%はあることを示しているからである。このように、文部科学省は、従来からDNA組換え実験指針の策定に際しては、米国に追随してきたが、今回の法制化に際してもこの姿勢は変わらない。