予研=感染研裁判東京地裁判決に対する原告団の声明

予研=感染研裁判の会

1 本年3月27日、東京地方裁判所は、わが国において最初の本格的なバイオハザード裁判である予研=感染研の実験差し止め訴訟について、判決を言い渡した。判決は、病原体が周辺に漏出する危険はないとして、私たちの請求を棄却した。しかし、私たちはこの判決に承服することは絶対できない。

 第1に、判決は、「原告らにおいて感染研の業務の危険性を具体的裏付けをもって主張し、立証する必要があり、その点の責任は果たされていない」と、病原体漏出の危険性があることの立証責任が私たち住民にあるとした。しかし、感染研が私たちの生活領域に一方的に進出し、かつ病原体実験業務に関する資料はすべて感染研が保持しているのであるから、逆に感染研において安全性について欠ける点のないことについて立証すべきであり、その立証を尽くさない場合は、感染研の実験業務に安全性が欠けるとみるべきである。このことは、原発訴訟においてすでに確立された法理となっている。

 しかし、今回の判決はこの法理を無視し、本件は公害型訴訟でないことを理由に、資料を何も持ち合わせていない私たちに立証責任を転化したのである。しかし、大量の病原体が漏れて周辺住民の生命や健康を侵害し、侵害の危険を与えることを生物災害というのであるから、まさに公害にほかならない。判決は、本訴訟がバイオハザード裁判であることを隠蔽しようとするものである。

 第2に、それでも私たちは、病原体が周辺に漏出する危険性について、詳細かつ具体的に立証した。これに対し、判決は、「想像にすぎない」「不安にすぎない」との理由で私たちの主張と立証をことごとく排斥したうえ、たとえば、ヘパフィルターは病原体を100%捕集できないことが明白であるのに、「ほぼ完全捕集が期待できるものといって差し支えない」と、勝手に決めつけて漏出の危険はないと判断したことにみられるように、私たち住民の主張は信用できない、感染研は信用できるの図式で、感染研の言い分を全面的に採用したのである。

 本訴訟は科学裁判であるから、私たちは科学的な立証をおこなったが、判決は、非科学的な理由でもって、病原体漏出の危険が証明されていない、と一方的に決めつけたものである。

 第3に、国内では病原体実験施設を規制する法律がないため、私たちはWHO基準にもとづいて感染研の安全対策を検証した。その結果、数十項目の基準違反が判明したにもかかわらず、判決は、基準を満たしていないから病原体が漏出するとは限らないとの理由で、WHO基準違反の事実に目をつぶった。
しかし、WHOは最低基準を定めたものだから、それに違反していることだけで安全対策が欠けていることを示すものである。どうして基準違反があっても病原体は漏出しないのか、判決はここにおいても何ら理由を示していないのである。

 第4に、感染研に対して実施された国際査察につき、判決は、感染研推奨のアメリカ人研究者の安全対策は十分に講じられているとの報告書は評価できるが、私たちが推奨したイギリス人研究者の報告は、安全対策が著しく不十分だとして「再移転」を要求した厳しいものであったのに、「推測」「可能性」を述べたものでしかないと切り捨てた。

 しかし、アメリカ人報告書は、査察を受けた感染研の当時の部長倉田毅が偽造したものである。それにもかかわらず、判決は「格別の不正義は認められない」として、偽造文書のほうを信用できるとしたのである。驚くべき正義感の欠如だといわなければならない。



2 以上のほかにも、判決は、私たちが提出した科学的証拠を直視せず、歪曲、曲解する過ちを犯している。阪神淡路大震災の教訓も無視している。また、判決には、人類を恐怖に陥れる生物災害を事前に防止しようとする姿勢がまったく認めらず、これまでの公害の教訓として導き出されてきた「予防の科学」に対する取り組みを完全に欠落している。私たちは、時代に逆行し、感染研の言い分を鵜呑みにした行政追随の判決を厳しく糾弾するものである。

 なお、今回の判決は、感染研が今後も戸山地区で実験を続けることを認めたものでは決してない。前述した立証責任の転換と偏頗な判決の結果でしかなく、感染研の安全対策が十分だと積極的に評価されたものではないからである。

 私たちは、今後も、控訴審において判決の誤りを是正させるとともに、住宅地での病原体実験の禁止を求めて引き続き奮闘するものである。

2001年3月30日
予研=感染研裁判の会
原告団臨時総会

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