科学者として                                 

新井秀雄(代表幹事)

 

炭疽菌(Bacillus anthracis)類似の感染を示すセレウス菌(B.cereus)

 

生物兵器の細菌としても知られる炭疽菌に対して、セレウス菌は自然界の土壌や汚水に広くみられ、健康な成人の一割くらいの腸管内にも棲息するような言わば常在的な細菌とされている。この2つは同じバチルス属であるが、一方は毒性の強い炭疽の原因菌であり、他方のセレウス菌のほうは偶に下痢や嘔吐を引き起こす食中毒の原因菌として知られている。

炭疽菌の強力な毒性は、この菌の核外遺伝子(プラスミド)によって支配されている。このプラスミドがセレウス菌に入って到死的な毒性をもち、あたかも炭疽のような症状を示す事例が報告された。インターネットによる感染症情報の「ProMED」で、この815日「病理学および実験医学紀要」の紹介記事が「B.cereus, anthraxlike infectionUSA」の表題で配信された(残念ながら原著へはアクセス不能であった)ので以下に少し紹介してみる。

https://mail.google.com/mail/?hl=ja&shva=1#inbox/131cf4ffd9f2265f

米国のテキサスの田舎に住んでいた来歴不明の人が急速に症状が進行する到死性の炭疽様の肺炎を起こすというバチルス属菌による圧倒的な感染症で死亡した。生前の検査材料から得られた菌を迅速に遺伝子検査や免疫組織化学的検査をした。その結果は、「この感染が、これまで未知の菌株であり、この菌株は炭疽菌に密接な類似性があるが遺伝的に異なるところのセレウス菌であった。この菌株は炭疽菌毒素のプラスミドの一つおよびその他を持っていた。生検材料の免疫組織化学的検査では、炭疽菌の毒素タンパク質のいくつかと均質なタンパク質が感染組織中に検出され、これが患者の死をもたらしたようだ」としている。結論的に、「迅速な遺伝子の配列分析」によってこの菌株を遺伝的に分別同定でき、その結果この症例におけるバイオテロリズムの可能性(つまり、炭疽菌でなくてセレウス菌であったが故に?)を排除できた、としている。しかし、逆に、いわば常在的なセレウス菌と分別同定された菌株が、炭疽菌同様の毒性を実際に示すようになってしまっていることが問題ではなかろうか。

この配信の直ぐあとに反応があって、今回のテキサスの事例の時期的な詳細がないことと、それとは別のもっと前の1994年にセレウス菌のG9241による通常見られないような重症化肺炎の症例で、炭疽菌の感染によく似ている症例がルイジアナでみつかり、さらに1996年にはテキサスで2例が見つかって2004年の科学専門雑誌PNASに報告されているとの指摘があった。

 https://mail.google.com/mail/?hl=ja&shva=1#inbox/131d0ec2987a1c99

 バチルス属には、殺虫剤との関連でB.thuringiensisとその殺虫遺伝子の組換え作物もよく知られている。       


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