武田薬品湘南研究所、本格稼働1ヶ月もたたない内に

重大事故発生 ―遺伝子組み換え実験廃水を漏出―

武田問題対策連絡会 代表 小林麻須男

 

武田薬品湘南研究所は、11月から本格稼働を開始したが、1ヶ月も経たない11月30日未明、遺伝子組換え廃水1㎥がタンク外に漏水させるという重大事故を発生させた。

<遺伝子組換え廃水漏出事故の概要>***文科省報道発表(12/2

武田薬品()湘南研究所( 神奈川県藤沢市・鎌倉市)に於いて、1130日午前1時から7時の間、水道水を止め忘れたことから、廃水を貯蔵している廃液タンクから、遺伝子組換えた大腸菌、バキュロウイルス及びサルモネラ菌を含む廃液を施設内に漏出させた。

武田研究所では、4階の実験室からの遺伝子組換え排水を、1階の廃液タンクに流すフローとなっており、今回の事故は、4階の実験室から大量の水道水が6時間もの間1階の廃水タンク(容量2㎥)に流れ込んだため、1㎥もの遺伝子組換え廃水がタンクからオーバーフローし、1階の床全面を水浸しにすると同時に、1 階の配管用の穴を伝い、地下階の床面にも廃液が滲みだした、というものである。

<文部科学省の対応>

11月30日、武田から連絡を受けた文部科学省は、

      12月1日に、職員を派遣して現地調査を実施し、施設内に漏出して回収された廃液及び漏出が認められた床面については、次亜塩素酸ナトリウムによる不活化措置が執られていることを確認。

      遺伝子組換え大腸菌、バキュロウイルス及びサルモネラ菌を含む廃液は、法令に基づきP1レベルの拡散防止措置が必要なものであり、こうした廃液が研究所内で漏出したことは不適切である事を指摘。

      床面以外の設備への飛散の可能性について、更に詳細な調査を行い、必要に応じて不活化等の措置を執るとともに、その結果及び原因究明と再発防止策を講じることを指導したと発表した。

 

<市当局、地元住民のへの通報の遅れ>

武田薬品は、12月1日、文科省の立ち入り調査が終わってから、藤沢、鎌倉両市に事故の報告をした。この報告を受け、市当局並びに連絡会議メンバーである近隣町内会役員が事故現場を見に行った。

今回のような重大な事故の通報は、1130日(水)当日朝の段階で、まず最初に、両市環境部と地元住民に広く知らせることが企業としての最低限の常識であり、基本であるべきである。

 

武田薬品研究所の安全管理システムの欠陥を露呈した

二つの重大なヒューマンエラー  

今回の武田薬品の遺伝子組換え実験廃水漏出事故は、武田薬品が絶対安全だと住民説明会等で説明してきた安全管理システムに重大な欠陥があることを露呈した事故である。

藤沢市の説明によると、今回の事故は、武田研究所の各棟1階には、遺伝子組換え廃水を貯留する約2㎥の廃水タンクがあるが、ここに上階から蛇口を閉め忘れた大量の水道水が集まり、1㎥以上もの遺伝子組換え廃水をタンクからあふれさせた事故である。

タンクが1杯になったとき警報装置が作動したにもかかわらず、研究室に鍵がかかっていて警備員は入れず、朝、研究員が出社して、やっと水道を止めたとのことである。

 

<事故の問題点:二つの重大なヒューマンエラーと設備上の欠陥>

第1のヒューマンエラー

今回の事故の原因は、夜中まで働いていた研究員が、廃水の押水である水道の蛇口を閉めたつもりで、完全な水の停止を確認しなかったことにあるが、こんな幼稚園園児でも厳しく躾されている蛇口の閉め忘れが何故起こるのか、危険な遺伝子組換え研究が夜中まで何故1人だけでの作業で行われるのか、複数で安全を確かめる事が出来ないのか、勤務態勢に問題がありはしないか、などが厳しく問われなければならない。

ちなみに、6時間で合計1㎥になる水を垂れ流したと言うことは、毎秒では46cc、湯飲み茶碗1杯分に相当し、決してわずかな流量ではない。ケアレスミスで済まされる問題ではない。

第2のヒューマンエラー

警報が鳴ったとき必要な研究室の合鍵を何故警備員が持っていなかったのか?安全よりも機密保持優先の経営姿勢に問題があるのではないか?しかも中に入って対応できないのに、何故即座に管理責任者に連絡を取らなかったのか?危機管理体制の不備と事故発生時の対応レベルの余りの低さに問題があるといわざるを得ない。

設備上の問題点

そもそもヒューマンエラーはゼロに限りなく近づける必要があるが、ゼロにはなり得ないという事を見越して、設備上の安全配慮をしておかなければならない。

今回の事故は、次の3点の設備が整っていれば、防げたことである。

① 水道の蛇口は手で操作する方式ではなく、足で踏んだ時だけ流出する方式にする事。

② P1施設もP2,P3施設と同様、実験後その場で不活化処理をする設備にする事。

③ 排水タンクがあふれる状況になった時には、その棟のすべての給水を自動停止するシステムにする事。

 

二度と起こすな、遺伝子組み換え廃水漏洩事故

―今後の安全対策―

 

     操業を止めて研究所全体の安全管理の総点検を

今回の事故は、事故を起こした箇所の問題だけでは無く、研究所   全体の安全管理に係わる問題である。武田薬品は、事故を起こした部 署だけで無く、研究所全体の安全総点検を実施すべきである。そして、事故が起こったときの手順を明確にすべきである。安全総点検が完了するまで、全体の操業を停止すべきである。

     事故について住民説明会を開け

武田薬品は、今回の事故について近隣住民にお詫びにまわると言っているが、謝れば済むというものではない。近隣ばかりで無く関連地域の市民に対しても、住民説明会を開き、事故原因の究明、再発防止の対策等について説明すべきである。

     レンタルラボ化計画の中止を求める

正規の従業員でも今回のような事故を引き起こすような状況では、レンタルラボ、外部ベンチャー企業の受け入れ、共同研究という名の下に研究室を開放して、成功したら利益を分かち合う武田薬品の経営戦略では、住民への危険性がより増すと言わざるを得ない。事故が発生したときの責任の所在が明確でないレンタルラボ化は止めるべきである。新薬開発が安全を軽視してなされるのであってはならない。

     専門家を入れた市民による「安全協議会」の設置が不可欠

今回の事故によって、武田薬品研究所の安全管理は、武田薬品だけでは不十分である事が明確になった。P3施設、遺伝子組換え施設、きわめて多くの動物実験施設などを併せ持った巨大な研究所は、東洋一、世界でも有数の規模で、武田薬品としても、これまでの経験では管理しきれないはずだ。

私たち藤沢・鎌倉の市民団体「武田問題対策連絡会」が以前から強く求めていたものだが、武田の社宅を含むごく近隣7町内会長と、村岡地区自治連会長しか出席できず、しかも市民の傍聴すら許されない「連絡会議」ではなく、広く両市の住民をはじめ、バイオ・医薬関係の専門家も入れた「安全協議会」の一日も早い設置が不可欠になってきた。


湘南研のバイオ施設構造的欠陥のままの操業は許されない

(施設の根本的改善が終了するまで当該施設でのバイオ実験停止が当然)


以下の報告は、当センターの新井代表が武田薬品の湘南研究所周辺の住民のための学習会の場で話された個人的なものですが、今回の事故の原因を的確に指摘したものとして重要なので、ここに掲載しておきます。 

武田湘南研のバイオ実験施設における今回の事故に対して、武田の事故報告、

 

文部科学省の対応さらにその後知り得た知見にもとづき目下緊急に対処する

 

事があると思います。

 

法定4階分(約12メートル)の落差を経て実験室の流しから未滅菌の実験後

 

の材料をパイプ配管内に水道水と共に落し込んで一階にある貯留槽に導き、一

 

定の分量に達した段階で高圧滅菌器へ移送してから滅菌する構造となっていま

 

す。しかもこのパイプ配管は、実に三十数箇所(の流し)から貯留槽に集中す

 

る構造になっていることが判明しました。武田の言い分は、この三十数箇所の

 

パイプ配管とその配管空間、および一階の貯留槽が置かれた部屋を全て含めて

 

一体のバイオ実験施設構造とみなすとのことです。

 

この見解は、あまりにも非常識であり到底認められるものではありません。安

 

全対策上は、まずバイオ実験終了後は直ちに実験材料を滅菌処理すること、第

 

二にその滅菌処理はその実験室内部で行われること。すなわち、バイオ実験の

 

ために制限された実験室区域外へ未滅菌状態で無処置のまま持ち出すことは禁

 

止です。例えば、菌株等をやむを得ず実験室外へ持ち出す場合には、厳重な封

 

印処置が必要とされます。それは、途中で転倒したりすることがあることを想

 

定して特別な搬送構造体に封じ込めた状態で運ばれなければなりません。した

 

がって、パイプ配管内を未滅菌のまま落下搬送させる構造は考えられないこと

 

です。バイオ実験施設の設計の段階ですでに間違っていたのでしょう。第三に、

実験終了後に可及的速やかに滅菌処理するのは、その実験を遂行した実験者が

 

責任をもって自身が実行ないしはその監督下で実行させ、滅菌終了をその実験

 

者自身が確認しなければなりません。これらはごく基本的な事柄であり、まさ

 

か今回の武田湘南研のような欠陥構造を持ったバイオ施設が実際に稼動してい

 

たとはまったくの驚きであり、世界において他に類をみないまさに奇想天外の

 

事態であろうと思います。

 

 今現在、緊急を要することは、このような欠陥構造体のままで実験を再開す

 

ることがあってはならないことです。欠陥構造の解消(改善)されないうちは、

 

当該施設でのバイオ実験が停止されねばなりません。少なくとも各バイオ実験

 

室に滅菌設備が設置されて実験後の材料を直ちに滅菌できるようになるまでは

 

実験を再開してはいけません。この点に関して、文部科学省がなぜ見過ごして

 

いたのか、そして関係自治体までもが見過ごしたままでいるのか不可解です。

 

武田に対して、改善されるまでの間はバイオ実験を停止するとの確約言質がと

 

られるべきです。今直ぐ文部科学省ならびに各自治体に行動を起させることを

 

求めていく必要があると考えます。また、武田に対して安易な実験再開をしな

 

いようにさせるための直接行動がなにかできないでしょうか。バイオ実験に携

 

わった経験者として、今回の事故をこのまま黙って看過できません。

 

2012.3.18  新井秀雄)



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