科学者として                                    

       新井秀雄(代表幹事)

鳥インフルエンザウイルスの感染研究一時休止について

昨年12月に科学誌「Nature」と「Science」が感染性鳥インフルエンザウイルス作成に関する2つの研究論文を掲載できない状態にあることが報道されました。一つはオランダの研究グループのものであり、今一つは日本の研究者が中心となって参画している米国の研究グループから投稿された論文です。米国のバイオセキュリティ科学諮問委員会の勧告に基づいて米国政府が論文掲載に待ったを掛け、論文の核心部分をはずして発表することを求めたとのことでした。年が明けて120日に世界のインフルエンザウイルス研究者39人がこの事態に対して、「鳥インフルエンザウイルスの感染研究を60日間休止する」との声明を発表しました。実験室にて鳥インフルエンザウイルス(H5N1)由来のウイルスから、このウイルスに感受性を示す実験動物フェレット(イタチに似た小動物)に空気感染(飛沫感染)するようになったものを選択したこと、つまり鳥ではなくて哺乳動物に感染性を持つ(飛沫感染する)ようになったとのことです。この辺のことは、すでに昨年9月にマルタで開かれた国際的なインフルエンザ会議のときに報告があったとのことです。インフルエンザに関しての情報は、外岡立人氏が広く詳しく追跡されています(http://panflu.world.coocan.jp/)。

 鳥に高病原性を示す鳥インフルエンザウイルス(H5N1)は、東南アジアやエジプト等で鳥と濃厚に接触した人が感染する散発例が現在も報告され続けており、感染発症した人の半数以上が死亡する場合もあってその動向が注目されております。しかし、今のところ感染した人から次の人へ直接に感染伝播する事態ではありません。このウイルスが人から人へ感染流行するように変異して世界的に大流行するようになると大変なことになると懸念されていますが、しかしいまや少なくとも実験室のレベルでは、人から人へ感染する可能性がある高病原性鳥インフルエンザウイルスが存在していることになりました(実験動物フェレットでの感染が人での感染を反映していると理解されています)。確かに、まだこの作成ウイルスの実際に人への感染能力がどの程度あるのか、そして人での病原性がどの程度なのかは未知の状態ですが、生物兵器関連施設が注目していると考えられます。このようなウイルスを作成したというオランダグループの研究では、フェレットに感染するように工夫した鳥インフルエンザウイルス由来のウイルスを人為的に次々にフェレットに継代感染させて強い感染性を示すウイルス(つまり飛沫感染するようになった)を選択するという旧来の生物兵器の開発方法に用いられていた常套的単純な方法を使って作り出したようです。その意味では、軍事施設でなくてもある程度の施設と情報があれば追試して変異ウイルスを入手するのはさほど困難ではなさそうです。現に自然界にみられる鳥に高病原性を示す鳥インフルエンザウイルスは、そのままでは人に直ちに高病原性を維持したままで高い感染性(世界的大流行)を持つ形に変異する可能性は低いために、ブタの中での混合感染による組換えが議論されています。実際にエジプトでは、ブタが大量に殺処分された報道がありました。しかし、実験室での作成では、ブタを介さなくても直接的に目的(人に飛沫感染可能)とする変異ウイルスが獲得できることが示されました。

 「(こうした)研究の重要性」が強調されています。また世界的大流行(パンデミック)対策のためのワクチン作成や治療法が確立されることが先であるとの議論もあります。一方で、研究室で出来ることは、いずれ遅かれ早かれ自然界でも起こるとの研究者のご都合的な主張もあります。しかし、この手の研究遂行がどのような悲惨な結果を全世界にもたらしうるかをよくよく考えて、すでに出来てしまった作成ウイルスを即刻封印し、この研究は遂行禁止してもらいたいものです。ここまでくると、この手の変異ウイルスが実際に世界中に出てくることはもはや覚悟しなければならないのかもしれません。そのときは今回作成されたウイルスとの比較研究もなされるでしょうが、それが人為的に作り出されたものかどうかを確定するのは不可能でしょう。 


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