ワクチントーク36 新型インフルエンザ(A/H11)対策総括会議 報告書批判

      臼田篤伸 (代表幹事 風邪・インフルエンザ・がん研究者)


標記総括会議は、2010622日、厚労省に対して新型インフルエンザの報告書を公表した。9項目にわたって述べられている。大筋で同省の行った対策の正当性を謳い上げた上で、反省点と今後のあり方を提言する9項目の骨子となっている。それぞれの要点を拾った上で、それらについての批判を加えてみたい。

     総合的評価と展望

新型インフルエンザで、わが国の死亡率が低水準にとどまったことをことさら強調することから始まる。第一波が終息した時点において重症者を減らし、死亡率を減少させる当初の目的はおおむね達成されたことをまず自賛する。死亡率が低い理由について、現時点で未解明としながらも、医療水準の高さや抗インフルエンザ薬の迅速な処方などを挙げているが、実際、百数十人の死亡者の中身は、タミフル投与による呼吸中枢抑制が関与した疑いが濃厚である。当センターが指摘する分子標的型脳症の典型とみられる。軽いインフルエンザで命を落とした子どもや若者が多数含まれる。今後、H5N1などの発生も予測しつつ、その恐怖を強調し、ワクチンとインフルエンザ新薬礼賛路線を突っ走ることが大前提となっている。

     全般的事項

新型インフルエンザ発生時の行動計画、ガイドラインは用意されていたが、病原性の高い鳥インフルエンザ(H5N1)を念頭に置いたものであったことをまず認めつつも、21年2月のガイドラインの改訂から間もない時期に新型が発生したこと、お門違いのパンデミックワクチンに全力投球していたこと、国・地方自治体において事前の準備、調整が不十分だったなどの言い訳に終始している。もとをただせば、ワクチン・タミフルを煽る一部専門家の言いなりになって、低病原性への対応がおろそかにされた結果といって差し支えない。もっとまともな専門家が対策会議に招聘されるべきである。上記理由で、国内ワクチンの大量供給ができなかったことを根拠に、臨時にワクチン接種を行う法的整備の必要性を唱えている。欧米製薬企業に振り回されたワクチン至上主義への反省が全く見られない。

     サーベイランス(発生状況の調査集計)

△新たに導入した入院、重症および死亡者サーベイランス並びにクラスター(集団発生)サーベイランスについては、運用時期や方法等について、まず既存のデータベースを公開した上で検討すべきとする。△全体のサーベイランス方法や体制、とくに評価に関わる方法や体制について、検討、強化すべきとしている。△各国のサーベイランスの仕組みを参考にしつつ、日常からのサーベイランス体制に強化の必要性を訴えている。△病原性の強さや感染状況に応じてサーベイランス方法を迅速かつ適切に切り替える必要を強調している。サーベイランスは必要なことだが、ワクチンやタミフルの供給体制とすぐに結びつける体質を改めなければならない。

報・リスクコミュニケーション

新型インフルエンザ発生等の危機管理においては、国民への迅速かつ正確な情報提供がきわめて重要なことを強調したのは、当然のことだが、恐怖を煽った上で、あり余ったワクチンへ国民を総動員したり、世界の7割以上を消費する「タミフル大国日本」のおろかさを反省する姿勢がまるで見られない。

     水際対策

今回の新型では、結果として水際作戦が十分な機能を果たせなかった。状況に応じた水際対策の変更、柔軟な対応を指摘した点は評価できる。当センターも声明で水際対策の必要性を訴えたから評価したのではなく、この対策は、いかなる感染症においても基本の「キ」であることは自明だからである。空気感染のインフルエンザに「手洗い」予防法の効果をもっともらしく宣伝するよりずっとましである。また、「水際対策」が「侵入を完璧に防ぐ対策」と誤解しないよう注意を喚起している点も評価できる。

●公衆衛生対策(学校等の臨時休業等)

病原性や、感染力の評価に応じた学校等の臨時休業や、集会、イベントの自粛等は、公衆衛生対策の基本であることに変わりはない。また、従業員などの出勤基準が、専門の医療機関を受診させた上で、治癒証明などを求める一律的なやり方を批判した点も評価できる。普通の風邪と大差ない新型への強制的対応は、個人の自由権の行使の侵害にあたることを考慮すべきである。

     医療体制

国が基本的な方針を示した上で、都道府県ごとの実情を踏まえた医療体制の検討を進める、そして必要な財政支援を行うべきといった主旨である。また、発熱相談センター、発熱外来の設置について検討、再整備の具体化などを謳っている。それに伴う感染症専門家の養成の必要性を唱えている。医療従事者への休業時ならびに、死亡、後遺症等への補償も謳われている。これらの上に立って、医療機関間および行政との連携体制を一層強化すべきという。

 最後は、タミフルを中心とする抗インフルエンザ薬などの備蓄と正しい使用方法の周知徹底でまとめている。2010年1月に出された日本感染症学会提言を受け、新規薬剤を含めた抗インフルエンザ薬の使用適用が、ますます拡大されようとしている。危険な副作用事故についての言及は全くなされていない。

     ワクチン

国家安全保障の観点から、全国民のワクチン確保を打ち出した。従来よりさらに踏み込んだワクチン政策の徹底をもくろんでいる。国産ワクチン生産体制の強化は、武田薬品の参入とも結びついた政策であることは明白である。海外メーカーへの解約金の支払いなど膨大な無駄遣いへの反省が見られない。集団接種の導入にも言及しており、タミフル問題ともあわせ、副作用被害には、「たてまえ」上の言及を加えた極めて危険な政策というほかない。「病院囲い込み政策」の一段の強化が待ち構えている。民主党政権が消費税率のアップをやる前に、この莫大な無駄とどう対処するかは、党の存亡とも結びつく重大な政策課題といっても過言ではない。

     結び

この報告書を国が最大限尊重することを求めている。新型インフルエンザ発生時の危機管理対策は、発生前の段階から十分な準備を怠らないことが肝心だと述べ、そのための体制強化の実現を強く要望し、総括に代えるという。

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