わくちんトーク40 新型インフルエンザ(H1N1)は強毒化するのか?

臼田篤伸 (代表幹事 インフルエンザ・風邪・ガン問題研究者)


 


新聞によると、今冬のインフルエンザは2月に入ってからB型の患者が増加し、全体の1割を超えた。B型が新型インフルやA香港型を越えた県もあるという。二つの主流派(新型とA香港)が活動している間、B型はじっと出番を待っていた。インフルの世界も強者と弱者の住み分けがきちんと行われているからだという。B型は重くならないが熱が下がりにくいとのこと。専門家は相変わらず、「手洗いの徹底」を叫んでいる。そして、この秋には新型の第三波が襲ってくると、過去のスペインカゼを引き出して不安を煽っている。

新型のワクチンはほとんど無効だった

 『新型インフルエンザの正体』(根路銘国昭著、講談社+α新書)には最近のインフルエンザ情報を正しく知るうえで貴重な研究成果が記されている。かつて感染研で、インフルワクチンの「旗振り役」だった人物とはとても思えないほど“真実”が正直に述べられている。ワクチンは2003年以降、本来の役目を果たせないレベルまで低下したとまで断言する。2006年には20.5lにまで低下したことが日本臨床内科医会によって報告されたとのこと。新型インフルにもそれがはっきり現れた。昨年5月に、鹿児島県沖永(おきのえ)良部(らぶ)島で新型インフルの流行があり、調べた結果、患者のほとんどが新型ワクチンを受けていた(日経)。一方、8月に感染研は、「今冬のワクチンに使用されるウイルスがワクチン製造中に変異してしまい、ワクチンは効かない可能性がある」と発表した。さらに、根路銘氏は「ワクチンの中に季節性インフルのウイルスが入っているため、全体としてワクチンの濃度が薄くなっているのではないか」と述べる。結論として同氏は「20102011年のワクチンの効果には期待が持てないことになる」と言うのだ。

強毒化の恐怖を煽る報道

 根路銘氏は2009年の第一波の流行ウイルスが20102011年冬も原因ウイルスとなった場合は、国民の大多数に免疫ができているから死亡被害は著しく抑えられる可能性があると指摘する。だが病原性を支配する遺伝子等に変異が起こった場合は逆に流行も死亡被害も増える可能性があるとのこと。いずれにしろ、家庭も学校も社会も十分心してインフルシーズンを迎えるべきと言う。妥当な発言と思う。これとは別に、インフルの恐怖を煽る専門家、あるいはジャーナリストもいる。その代表格が、21世紀政策研究所の岡田晴恵氏だ。2月12日付毎日新聞で、豚型新型インフルエンザが軽く済んだからと油断してはいけないという。無論そうである。だが同氏はH5N1型強毒型インフルエンザ対策が大きく後退していることを、ことさら憂慮する。そして、プレパンデミックワクチンの大量備蓄を主張する。ジャーナリストの志村岳氏も『週間金曜日』で、岡田氏よりは控えめながら同様の主張を行っている。しかし彼はプレパンデミックワクチンなどの妄想には取りつかれていない。これらは欧米のワクチンメーカーや国内のワクチン急進派にそそのかされているか、ワクチン・タミフル至上論者が主導権を握る感染研の取材などから、そういう論評をする立場にならざるを得ないからであろう。ここで注意しなければならないのは、近年のWHOの方針が、インフルに関して、巨大製薬メーカーに操られているという確度の高い客観的事実が報道されていることである。ドイツの雑誌『シュピーゲル』誌による「『集団ヒステリーの検証』−2009年ブタインフルエンザ・パニックー」がそれである。インフル関連製薬メーカーなど関係者全体が一団となって、計画的に「パンデミック」宣言を誘導した状況が描かれている。これについては次号以降で言及したい。

新型の祖先はニュージャージーブタ型

 今度の新型の直近の祖先はAニュージャージー豚型ウイルスである。そのもとは、かのスペインインフルエンザだった。それはいつの間にか弱毒型になっていった模様である。ところで、新型インフルエンザ発生時の対応の間違いが、不安とパニックを引き起こした好例として引き合いにされるのが、1976年のニュージャージー州のフォート・ディックスの陸軍基地の新兵訓練場で起きた新型ウイルス事件たった。このウイルスは当時流行っていたA香港とも、B型とも反応せず、いくつかの血清との反応を調べた結果、1930年代流行のA・ブタ・アイオア(H1N1)と強く反応した。その後のブタ型とも同様の反応を示し、ブタ型(H1N1)ウイルスと判明したため関係者を一様に震え上がらせた。1918年のスペインカゼの再襲来を予感したからだった。時のフォード大統領は翌年の大統領選挙を控えていたこともあって、全米国民分のワクチンを製造し接種を開始したが、この政策は大失敗に終わった。

副作用多発でワクチン中止

 全国民への集団接種を開始した後、ギラン・バレー症候群という脳神経系の重い副作用が多発した。4300万人接種のうち、400人に発生、25人が死亡した。これによってワクチン接種は中止に追い込まれ、フォード政権も消滅した。このウイルス自体も人間世界からは消え去っていった。根路銘氏によると、そのときのワクチンに使用された添加物にはギラン・バレーを発症させる物質は含まれていなかったから、ブタ型ウイルス自身の性質が反映された結果と考えられるという。日本で今打たれている新型ワクチンに対しても同様の副作用の可能性を考慮すべしと警鐘を鳴らしている。

ヒト体内で抗原変異がスピードアップ

 人の世界で消え去ったはずのインフルウイルスが、実はブタの中では温存されていた。ブタの免疫系はウイルスを強く刺激することがないためと考えられる。逆に人の免疫系はウイルスに対し、強い免疫誘導をする性質がある。その結果、猛スピードで変異を繰り返しながら生き延びようとする。挙句の果ては追放されて生存できなくなると考えられている。このことはインフルウイルスに対する闘いというものが、かえってウイルスの変異を加速し、ワクチンや新薬への耐性を作り易くしているといってよいのではあるまいか。根路銘氏の著書によると、ヒトウイルスHAタンパク質のアミノ酸の変化率を100%とした時、ブタウイルスの場合は1432.1%、トリウイルスに至っては1%以下という。これはウイルスの進化速度の比率でもある。ヒトでのウイルスの進化速度が速いということは、病原体としての抗原変異のスピードも速いということで、結果的にワクチンの有効性が著しく損なわれることになる。こう述べている。

ヒトとインフルウイルスはそりの合わない天敵同士

 同書はさらに、人間がいくらウイルスの抗体からワクチンを作っても、ウイルスは自ら生き延びるために変異を重ねていくので、ワクチンが効かないことが常に起こると記している。よって、両者は天敵同士ということになる。

研究は大切だが戦いは不毛

 38日付け朝日新聞によると、高病原性鳥インフルエンザのプレパンデミックワクチンは、現在3千万人分が備蓄され、そのうち毎年1千万人分が期限切れになって廃棄処分になり、その分が補充されるシステムになっている。ドブに金を捨てているのがこの国のインフル行政だ。このH5N1型鳥インフルエンザについて、根路銘氏は以下のような妥当な見解を述べている。「細胞に取り付くトリウイルスは、HAタンパク質はまだトリの型で、人間の細胞に結合できない。だから新型として流行する可能性はないのだ。H5N1ウイルスが人間で流行した場合、腸管、呼吸器、神経というふうに全身感染で多数の人々が死ぬのだという、似非(えせ)学者達の悪い宣伝もあるようだが、トリでの症状は人間では再現されることはないのである」と。

目次