わくちんトーク44 小児にとってインフルエンザは必ずしも重い病気とは言えない 

      臼田篤伸 (代表幹事 インフルエンザ・風邪・がん問題研究者)


前回(43)はメーカー主導の肺炎球菌ワクチンの大宣伝の不当性について報告しました。大阪赤十字病院救命救急センター長・山本英彦医師によって同ワクチンの欠陥が明らかにされました。今回はインフルエンザに関して、同医師による研究結果を引用させていただき、近年“重病論”が跋扈する実体について報告します。

     インフルエンザ研究の第一人者

山本氏は市民に役立つ小児科医・内科医として全国的に活躍をする。長年の臨床経験はもちろんのこと、国内のみならず世界中の文献に基づいて、相対的評価を行っている。とりわけ、臨床統計学的調査は群を抜いていて、説得力において他の追随を許さない。『診断と治療』(Xol.97.2009)に掲載された同氏の論文を参考にさせていただいて、短く考察を行ってみたい。

     怖い病気の典型とされたインフルエンザ

“インフルエンザは風邪じゃない”キャンペーンによって合併肺炎や関連脳症で不幸な機転をとるケースが近年ことさら強調されている。高病原性トリインフルエンザにおける危機管理との関連で語られることも多い。流行期には比較的短期間に多数の患者が医療機関に押し寄せるため、あたかも重病の流行のように患者、医療者側が錯覚するのであろうか。

     大部分が軽症

インフルエンザはほとんどが軽い上気道炎症で治癒する。不顕性感染で終わる場合が大部分と言う。よって大方の人は病院・診療所にかかる必要性がないといって過言ではない。慢性疾患を抱えた人や幼小児の場合には医療機関のお世話になることの必要性が高いのは言うまでもない。ウイルスに対する「リンパ球の過剰防衛」がこの病気を重くする主原因であることを、私は幾度となく述べてきた。対処法はおのずから明らかで、リンパ球に対して適度に働いてもらう工夫をしてあげれば良いのである。ぬれマスクなどの自然治癒策とともに、引き始めの市販の風邪薬がその役目を果たす。

     タミフルの莫大な消費が諸悪の根源

2005年にわが国のタミフル消費量は世界の80%を占めた。メーカーと医療側がタイアップした需要増大であることは明白なことだ。異常なまでの薬剤消費国の姿に、ただ驚くばかりである。小児の医療現場では臨床医にとってインフルエンザは「風邪」として対応する場合が大部分であることを山本氏は強調する。そして、インフルエンザウイルスにことさら対抗しようとする医療側の姿勢を見直す契機に、この論文を位置付けたいとする。

     調査結果が打ち消す「重病説」

山本氏による大阪日赤病院の調査結果は、要約して次の結果を示した。2001年―2002年シーズン、および20052007年シーズンのデータから、熱性けいれんの頻度が他疾患に較べ有意に多かったが、入院総体でみると非流行期入院数を上回ることはなかった。CNS(central nervous system)症状の分析結果では、単純型の熱性けいれんがインフルエンザ流行期で多かったものの、けいれん重積や脳炎、脳症の合併症には有意差はなかった。これらの所見から、小児インフルエンザを特別視させているのは、インフルエンザ脳症の存在が大きいといえるが、同病院の調査結果からは、急性脳症はインフルエンザに限らず発症すること、頻度から言うと、むしろ突発性発疹によるほうが、むしろ多いかもしれない、と述べている。

こうした事実から、インフルエンザを特別視するのではなく、軽症と思えるウイルス感染や熱性けいれんの中に重症化する場合があると考え、対処する必要性を訴える。同病院で上記2シーズンに経験した脳症の3症例は、けいれん重積と治療後の意識障害の遷延した例、タミフル服用後に意識障害が遷延した例であり、インフルエンザ関連脳症とは必ずしも言えないものであったと結論している。タミフルは新たな脳症との関連が浜六郎氏によっても明らかにされており、その効果への疑問とあわせると、小児への投与は差し控えるべきと指摘する。

     インフルエンザ特別視はワクチン接種向上のため

インフルエンザ関連脳症の存在が小児へのワクチン接種向上の拠り所だったが、研究班・水口の調査でも、ワクチンで高力価のHI抗体を有しても脳症を発症することが明らかにされている。また疫学的調査でも脳症発症者のワクチン接種率はコントロール群である脳症非発症者の接種率と変わらないことが明らかにされている。不活化ワクチンの有効性がないにもかかわらず、世界中で接種を推奨する政策がなぜ行われているか、このギャップを解明する必要性が求められている、と同氏はみている。

 結論として、小児インフルエンザは、大部分が少し程度の重い風邪である。ワクチン評価のための区別が強調されすぎたのかもしれないが、エビデンスのきわめて薄いワクチンを流布するために、頻度のきわめて低いまたは対応可能な場合の多い重症症例を強調しすぎているのが、今日インフルエンザを特別視させている現状であると山本氏は考えている。

     タミフルに関する重要記事

昨年1222日付信濃毎日新聞には、「タミフル 突然死リスク増?」の見出し記事が掲載された。09年流行の新型インフルエンザで死亡した国内約200人の分析から、治療薬タミフルの使用で容体が急変して死亡するリスクが高まったとする研究結果を、薬の安全性を調べているNPO法人「医薬ビジランスセンター」(大阪市)理事長の浜六郎氏らがまとめ、発表した。それによると、タミフルを処方された112人のうち、処方後12時間以内に呼吸困難に陥った人が37人いた。一方、治療薬を処方されなかった25人で12時間以内に呼吸困難になったのは1人だけだった。これらの結果から、タミフルを処方された人の場合、容態が急変して死亡する危険性が、治療薬なしの場合と比べて、約3.8倍高いと推定されるという内容だった。厚労省は、この報告を否定する姿勢を示すが、072月に中学生2人が服用後に自宅マンションから転落死するなどの異常行動が報告されたため、同年3月から10代への投与を原則禁じている。厚労省のタミフル投与推進との矛盾がいっそう露呈した格好である。インフルエンザはこれほどの危険を冒すほどの病気ではないことは上記のとおりである。

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