わくちんトーク51 がんワクチンについて @ペプチドワクチンの現状

      臼田篤伸  代表幹事 インフルエンザ・風邪・がん問題研究者

 

がんによる死亡率の上昇や、がんの3大療法の行き詰まりから、このところがんワクチンのニュースが新聞等でにわかにクローズアップされています。最近の情報と筆者のこれまでの研究結果をあわせて検討し、第四のがん治療法としてマスコミ等で脚光を浴びているがん免疫療法(がんワクチン)の現状を報告します。内容が多岐にわたるため、三回に分けて記述します。第一回は、がんワクチンへの総論的見解を述べます。

●治療するワクチン

 ワクチンというと言うと一般には体内に抗体を作って病気の予防のために用いられる名称だが、このワクチンは「治療する」ことを目的としている。がん抗原には数多くのものがあり、それらをどのように攻撃するかは容易なことではない。そんな中でがんペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンが今注目を集めている。この治療法の優れたところは抗がん剤や放射線のような副作用がほとんどないことである。いずれも新薬としての承認を得る前の試験段階のものであり、治療効果は良くても厚労省から正式には認められていない。

 樹状細胞とは、マクロファージと同系統の免疫細胞で、同じ単球に由来する白血球のひとつの存在形態と考えられる。

●抗がん剤と縁が切れない免疫療法の現状

 2月1日、8日付け日経新聞には、「がん免疫療法」と題した記事が上下2回にわたり掲載された。そのメインタイトルがそれぞれ、「抗がん剤併用で治療効果」と「『最善の治験』内外で試す」というものである。「上」では、がん細胞に多く存在するいくつかのペプチド(ペプチドワクチン)を患者に投与しがんと闘う免疫細胞を活性化する方法が述べられた上で、「抗がん剤との併用でないと効果が期待できない」といった言葉で結ばれている。つまり、最先端技術であるはずのがん免疫療法が、込み入った迷路に踏み込んでいる状況が如実に示されている。「下」では米、英、独企業などの臨床試験中の免疫療法が表示されている。そして、がんペプチドの多様さに加え、種々雑多ながん細胞への攻撃目標設定に右往左往している現状が浮き彫りになっている。非常に複雑な仕組みで調整されている免疫システムを活用する技術はまだ確立していない。このため「免疫療法でがん細胞への攻撃力を高めようとしても思い通りには行かないケースが多い」というのが現状だ。結びは、「がんワクチン単独で効果が期待できるのは脳腫瘍に限られる。あとは抗がん剤との併用でないと難しい」と述べ、難題が山積していることが窺える。結果として、製薬メーカーのドル箱となっている抗がん剤を前提として免疫療法が行なわれているのが現実の姿である。言い換えると、抗がん剤でリンパ球免疫力をわざわざ落としておいて、がんの免疫療法を行なっているとの見方もできる。

●「標準治療を前提」が専門家の合言葉

 上記のように、抗がん剤をはじめ、手術、放射線の治療を行った上で、あるいは同時併行治療した上で、がんワクチンを行なうべし、と言った奇妙な論理がまかり通っている。抗がん剤治療など従来のがん医療を優先させて、がんワクチンを行うと言うのは、旧態依然のがん医療に気がねして、それらを行うことを正当化しようとするもので、ここでもまた、誤った医療がまかり通ることになりかねない。ただし、従来の三大療法も適切に行使された場合には無論、有効性を発揮することも多く、これを否定するものではない。        

●三大療法と免疫療法は対等に論じるべきではない

 月刊「むすぶ」(ロシナンテ社、京都市)には、20128月(NO499)から4回にわたってがんワクチンと関連した記事を掲載している。著者は「みずほ漢方研究所」の橋本行生内科の橋本行則氏である。それによると、四番目に登場した免疫療法は、手術・化学療法・放射線療法を行う上での基礎になるべきものであり、これら三大療法と対等に論じるべきではない、という。三大療法を行うにしても、この基礎となる免疫療法を行っていると、治療経過がよい、副作用が出にくいなどの効果が期待できるからである。すなわち、順番として、一番最後の段階で免疫療法を行うという考えではなく、「まず基礎を作るために免疫療法をやっておき、免疫療法を継続させながら、その上で手術・化学療法・放射線療法を行うのが正しい行き方であると考えられる」と述べる。

●樹状細胞活性化の道筋がない現状の免疫療法

 橋本氏は、NHK番組「あさイチ」で話題になった『がんワクチン治療革命』(講談社)の著者・中村裕輔氏(シカゴ大学医学部教授)のがんワクチンに対して以下のような誤りを指摘した。「がん細胞を殺すキラーT細胞を活性化するためには、2つのルートが存在します。中村教授らのペプチドワクチンのペプチドはこのルートのうち、HLA(MHCと同じ)クラス1の一本です。しかし、キラーTを活性化するためにはこのひとつのルートだけでは不十分であり、CD4(Tリンパ球のひとつ)が出すインターフェロン・ガンマなどによる側面支援が必要です。このルートはアジュバントという物質によって始まります。ペプチドワクチン療法においても、この側面支援をするアジュバントとしてどのようなものを用いるかが、運命の分かれ道となります。中村教授のペプチドワクチンによる免疫療法では、このアジュバントによいものを使うことが出来なかったことが最大の弱点になったと考えられます」という。(次頁の「細胞性免疫のでき方」参照)

以下に、橋本氏による正しい免疫療法について紹介する。

「樹状細胞は与えられたどんな種類の抗原にも反応するのではない。そんなことをしていたら樹状細胞は忙しくてたまったものではない。よって、自分にとって有害な微生物と判断した時に、それを認識するために働く(反応する)。哺乳類の樹状細胞の表面には、自分の体が持っていない、自分には異質な(微生物由来の)化学構造物を見分けて、自らを活性化するためにTLRという受容体が

わくちんトーク51 がんワクチンについて @ペプチドワクチンの現状

      臼田篤伸  代表幹事 インフルエンザ・風邪・がん問題研究者

 

がんによる死亡率の上昇や、がんの3大療法の行き詰まりから、このところがんワクチンのニュースが新聞等でにわかにクローズアップされています。最近の情報と筆者のこれまでの研究結果をあわせて検討し、第四のがん治療法としてマスコミ等で脚光を浴びているがん免疫療法(がんワクチン)の現状を報告します。内容が多岐にわたるため、三回に分けて記述します。第一回は、がんワクチンへの総論的見解を述べます。

●治療するワクチン

 ワクチンというと言うと一般には体内に抗体を作って病気の予防のために用いられる名称だが、このワクチンは「治療する」ことを目的としている。がん抗原には数多くのものがあり、それらをどのように攻撃するかは容易なことではない。そんな中でがんペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンが今注目を集めている。この治療法の優れたところは抗がん剤や放射線のような副作用がほとんどないことである。いずれも新薬としての承認を得る前の試験段階のものであり、治療効果は良くても厚労省から正式には認められていない。

 樹状細胞とは、マクロファージと同系統の免疫細胞で、同じ単球に由来する白血球のひとつの存在形態と考えられる。

●抗がん剤と縁が切れない免疫療法の現状

 2月1日、8日付け日経新聞には、「がん免疫療法」と題した記事が上下2回にわたり掲載された。そのメインタイトルがそれぞれ、「抗がん剤併用で治療効果」と「『最善の治験』内外で試す」というものである。「上」では、がん細胞に多く存在するいくつかのペプチド(ペプチドワクチン)を患者に投与しがんと闘う免疫細胞を活性化する方法が述べられた上で、「抗がん剤との併用でないと効果が期待できない」といった言葉で結ばれている。つまり、最先端技術であるはずのがん免疫療法が、込み入った迷路に踏み込んでいる状況が如実に示されている。「下」では米、英、独企業などの臨床試験中の免疫療法が表示されている。そして、がんペプチドの多様さに加え、種々雑多ながん細胞への攻撃目標設定に右往左往している現状が浮き彫りになっている。非常に複雑な仕組みで調整されている免疫システムを活用する技術はまだ確立していない。このため「免疫療法でがん細胞への攻撃力を高めようとしても思い通りには行かないケースが多い」というのが現状だ。結びは、「がんワクチン単独で効果が期待できるのは脳腫瘍に限られる。あとは抗がん剤との併用でないと難しい」と述べ、難題が山積していることが窺える。結果として、製薬メーカーのドル箱となっている抗がん剤を前提として免疫療法が行なわれているのが現実の姿である。言い換えると、抗がん剤でリンパ球免疫力をわざわざ落としておいて、がんの免疫療法を行なっているとの見方もできる。

●「標準治療を前提」が専門家の合言葉

 上記のように、抗がん剤をはじめ、手術、放射線の治療を行った上で、あるいは同時併行治療した上で、がんワクチンを行なうべし、と言った奇妙な論理がまかり通っている。抗がん剤治療など従来のがん医療を優先させて、がんワクチンを行うと言うのは、旧態依然のがん医療に気がねして、それらを行うことを正当化しようとするもので、ここでもまた、誤った医療がまかり通ることになりかねない。ただし、従来の三大療法も適切に行使された場合には無論、有効性を発揮することも多く、これを否定するものではない。        

●三大療法と免疫療法は対等に論じるべきではない

 月刊「むすぶ」(ロシナンテ社、京都市)には、20128月(NO499)から4回にわたってがんワクチンと関連した記事を掲載している。著者は「みずほ漢方研究所」の橋本行生内科の橋本行則氏である。それによると、四番目に登場した免疫療法は、手術・化学療法・放射線療法を行う上での基礎になるべきものであり、これら三大療法と対等に論じるべきではない、という。三大療法を行うにしても、この基礎となる免疫療法を行っていると、治療経過がよい、副作用が出にくいなどの効果が期待できるからである。すなわち、順番として、一番最後の段階で免疫療法を行うという考えではなく、「まず基礎を作るために免疫療法をやっておき、免疫療法を継続させながら、その上で手術・化学療法・放射線療法を行うのが正しい行き方であると考えられる」と述べる。

●樹状細胞活性化の道筋がない現状の免疫療法

 橋本氏は、NHK番組「あさイチ」で話題になった『がんワクチン治療革命』(講談社)の著者・中村裕輔氏(シカゴ大学医学部教授)のがんワクチンに対して以下のような誤りを指摘した。「がん細胞を殺すキラーT細胞を活性化するためには、2つのルートが存在します。中村教授らのペプチドワクチンのペプチドはこのルートのうち、HLA(MHCと同じ)クラス1の一本です。しかし、キラーTを活性化するためにはこのひとつのルートだけでは不十分であり、CD4(Tリンパ球のひとつ)が出すインターフェロン・ガンマなどによる側面支援が必要です。このルートはアジュバントという物質によって始まります。ペプチドワクチン療法においても、この側面支援をするアジュバントとしてどのようなものを用いるかが、運命の分かれ道となります。中村教授のペプチドワクチンによる免疫療法では、このアジュバントによいものを使うことが出来なかったことが最大の弱点になったと考えられます」という。(次頁の「細胞性免疫のでき方」参照)

以下に、橋本氏による正しい免疫療法について紹介する。

「樹状細胞は与えられたどんな種類の抗原にも反応するのではない。そんなことをしていたら樹状細胞は忙しくてたまったものではない。よって、自分にとって有害な微生物と判断した時に、それを認識するために働く(反応する)。哺乳類の樹状細胞の表面には、自分の体が持っていない、自分には異質な(微生物由来の)化学構造物を見分けて、自らを活性化するためにTLRという受容体が備えられている。人の樹状細胞の場合、10個あるTLR受容体のうちの2個が結核菌由来のBCGCWSのペプチドグリカンを認識する。TLRBCGCWSが結合し認識したことが樹状細胞の核に伝えられ、樹状細胞は活性化する。このように樹状細胞をよく活性化する物質を免疫賦活剤(アジュバント)という。樹状細胞の存在意義は、自身の生体細胞の構造物質にはない異物である微生物の構造物質を見分けるものである。よって、自分自身の細胞から生じたがん細胞を異物として見分けることが出来ない。それゆえにがんの免疫療法は難しい。そのために、樹状細胞には活性化のプロセスが必須となる」と述べる。

●ペプチドワクチンは優秀なアジュバントとの組み合わせが必要

 橋本氏によると、「莫大な費用をかけて、がん細胞のペプチドを作って、樹状細胞の鼻先にぶら下げてみたところで、樹状細胞がこれに簡単に食いつくわけではありません。樹状細胞は病原体によって活性化されなければ、ペプチドに食いつかないのです。そこで有史以来の人類の強敵である結核菌を使って体をだますわけです。BCG−CWSの主な有効成分は、ウシ型の結核菌のいちばん外側の細胞壁の切れ端のペプチドグリカンです。BCG−CWSを皮内に接種しても、人は結核という病気にはなりませんが、この結核菌の切れ端の分子構造を、樹上は細胞は結核菌が来たと素早く反応し、活性化されて臨戦態勢に入ります。これががんの免疫療法のポイントです」という。

●キラーT細胞の活性化にはアジュバントによる樹状細胞の活性化が不可欠

 何も結核菌の侵入の危機が到来したわけでもないのに、牛型結核菌の細胞壁の断片であるBCG-CWSが樹状細胞のTLRと結合しただけで、樹状細胞は活性化され臨戦態勢に入るのである。このように樹状細胞は活性化されると、リンパ節へと移行し、マクロファージやキラーT細胞を活性化するために成熟していく。これがアジュバントの絶大な効果の説明となる。ちなみに、キラーT細胞は微生物やがん細胞などの標的細胞を直接攻撃する。

細胞性免疫のでき方

 活性化された樹状細胞はリンパ節へと移行し、マクロファージやキラーT細胞を活性化するために成熟していく。キラーT細胞はがんや細菌などの標的細胞を直接攻撃する。成熟した樹状細胞はBCG-CWSを取り込んで、その中の有効成分をMHCクラスU分子にはさみ、それを未熟なT細胞に提示する。これにより、活性化されたヘルパーT1Th1CD4リンパ球)細胞が誘導される。誘導されたTh1細胞はインターフェロン・ガンマとインターロイキン2を出して、予め抗原ペプチドを提示されていたキラーT細胞(CD8細胞)を活性化し増殖させる。キラーT細胞は活性化されると標的細胞を攻撃して破壊する。これが細胞性免疫である。これがMHCクラスUルートである。

この細胞性免疫の始動は、アジュバントにより樹状細胞が活性化されることが前提条件である。がんペプチドワクチンのペプチドによって樹状細胞が活性化されるのではない。免疫療法ではアジュバントが最も重要な働きをする。優れたアジュバントが用いられ、樹状細胞が活性化されるという基礎工事の上に、がんの抗原であるペプチドワクチンが用いられるのが理想的なのである。

(次号へ続く)

備えられている。人の樹状細胞の場合、10個あるTLR受容体のうちの2個が結核菌由来のBCGCWSのペプチドグリカンを認識する。TLRBCGCWSが結合し認識したことが樹状細胞の核に伝えられ、樹状細胞は活性化する。このように樹状細胞をよく活性化する物質を免疫賦活剤(アジュバント)という。樹状細胞の存在意義は、自身の生体細胞の構造物質にはない異物である微生物の構造物質を見分けるものである。よって、自分自身の細胞から生じたがん細胞を異物として見分けることが出来ない。それゆえにがんの免疫療法は難しい。そのために、樹状細胞には活性化のプロセスが必須となる」と述べる。

●ペプチドワクチンは優秀なアジュバントとの組み合わせが必要

 橋本氏によると、「莫大な費用をかけて、がん細胞のペプチドを作って、樹状細胞の鼻先にぶら下げてみたところで、樹状細胞がこれに簡単に食いつくわけではありません。樹状細胞は病原体によって活性化されなければ、ペプチドに食いつかないのです。そこで有史以来の人類の強敵である結核菌を使って体をだますわけです。BCG−CWSの主な有効成分は、ウシ型の結核菌のいちばん外側の細胞壁の切れ端のペプチドグリカンです。BCG−CWSを皮内に接種しても、人は結核という病気にはなりませんが、この結核菌の切れ端の分子構造を、樹上は細胞は結核菌が来たと素早く反応し、活性化されて臨戦態勢に入ります。これががんの免疫療法のポイントです」という。

●キラーT細胞の活性化にはアジュバントによる樹状細胞の活性化が不可欠

 何も結核菌の侵入の危機が到来したわけでもないのに、牛型結核菌の細胞壁の断片であるBCG-CWSが樹状細胞のTLRと結合しただけで、樹状細胞は活性化され臨戦態勢に入るのである。このように樹状細胞は活性化されると、リンパ節へと移行し、マクロファージやキラーT細胞を活性化するために成熟していく。これがアジュバントの絶大な効果の説明となる。ちなみに、キラーT細胞は微生物やがん細胞などの標的細胞を直接攻撃する。

細胞性免疫のでき方

 活性化された樹状細胞はリンパ節へと移行し、マクロファージやキラーT細胞を活性化するために成熟していく。キラーT細胞はがんや細菌などの標的細胞を直接攻撃する。成熟した樹状細胞はBCG-CWSを取り込んで、その中の有効成分をMHCクラスU分子にはさみ、それを未熟なT細胞に提示する。これにより、活性化されたヘルパーT1Th1CD4リンパ球)細胞が誘導される。誘導されたTh1細胞はインターフェロン・ガンマとインターロイキン2を出して、予め抗原ペプチドを提示されていたキラーT細胞(CD8細胞)を活性化し増殖させる。キラーT細胞は活性化されると標的細胞を攻撃して破壊する。これが細胞性免疫である。これがMHCクラスUルートである。

この細胞性免疫の始動は、アジュバントにより樹状細胞が活性化されることが前提条件である。がんペプチドワクチンのペプチドによって樹状細胞が活性化されるのではない。免疫療法ではアジュバントが最も重要な働きをする。優れたアジュバントが用いられ、樹状細胞が活性化されるという基礎工事の上に、がんの抗原であるペプチドワクチンが用いられるのが理想的なのである。

(次号へ続く)

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