わくちんトーク52 がんワクチンについて A免疫療法の基本はリンパ節温存

      臼田篤伸  代表幹事 インフルエンザ・風邪・がん問題研究者








前回(NO51)は「ペプチドワクチンの現状」と題して、現在行われているペプチドワクチンにはいくつかの問題点のあることを指摘しました。その要点は、マクロファージやキラーT細胞に指令を出す樹状細胞を活性化させる道筋がキチンと出来ていないこと、樹状細胞を活性化するためには適切なアジュバント(免疫賦活剤)を用いるべきこと、アジュバントの代表選手は牛型結核菌の細胞壁の断片であるBCG-CWSであることを述べました。今回は、上記の目的達成に当たっては、リンパ組織の果たす役割が非常に重要であることを述べます。

●リンパ節郭清術の惨状

がん細胞が最初に転移を起こすところはリンパ節という「常識」がこれまで(現在でもこの考え方は多い)罷り通ってきました。がん細胞が転移する場合、それが生まれた臓器に付随するリンパ管を伝わってリンパ節にたどり着き、そこでがん細胞は増殖を起こすと考えられてきた。だからリンパ組織が、がんの運搬人の役目を果たしているのだと医師たちは考えてきた。したがってそこは、がん発進基地なのだから徹底的に叩き潰す必要があると信じてきたわけです。リンパ節を徹底除去・郭清した結果、術後の後遺症で苦しむ患者が少なくない。実際に筆者の歯科医院を訪れた、ある子宮がんの患者さんの例を挙げると以下のようです。20年位前に子宮がんの手術と周囲組織の郭清術を受けられた。がんは完治したものの、リンパ流が阻害されたため、リンパ液が重力で両足の下肢に溜まり、パンパンに膨れ上がり本来の足と比べ、少なく見積もっても45倍位の太さになっている。ふだんは長めで太いズボンをはいているので、外見上は分かりずらいが、明らかに異常といえます。歩行障害、排尿障害などがあり、1人での外出はままならず家族の車で移動しています。精神的、肉体的な苦痛を一生負うことになります。詳しいことを聞くのは失礼なのでこれ以上のことは分かりません。骨盤内臓器の「リンパ節郭清術」の後遺症の一例です。このほか、乳がんの患者さんの場合は、腋下リンパ節の郭清が行われたため、片腕がパンパンに腫れていました。

●安保徹氏が医学的に解明

 同氏の著書『病気は自分で治す』(新潮社)には次のように記されている。「世の中では稀に、本末転倒のことが行われています。がん患者の手術の際に行われるリンパ節郭清ほど本末転倒で悲しいことはありません。リンパ節には体の中のいろいろな組織から体液が集められ、リンパ液となって入ってきます。このとき、異物や異常細胞も集められて処理されるのです。リンパ節の処理能力が十分に発揮されるには、自律神経のバランスがよく、深部体温が37℃以上あることが必要です。がん細胞がリンパ節に見つかりやすいのも、リンパ節によるがん処理能力のすばらしさを表すものなのです。リンパ節にがん細胞が見つかったからといって、そのリンパ節を除去するのはマイナスです。それはむしろ、体の防御系を破壊し、転移を促進させる医療行為なのです。―中略― 歯科医の臼田篤伸先生は、その著書で『リンパ節はがん発進基地ではない』と述べていますが、まさしくそのとおりだと思います。敵と見方を取り違えているのが現代医療なのです」と。

●リンパ節は免疫細胞の仕事場

 標題のように、免疫療法を成功させるためには、リンパ節が温存されていることが重要です。「みずほ漢方研究所」の橋本行則氏は「リンパ節は免疫療法の仕事場です。リンパ節が腫れている場合は、生体の免疫細胞が病原体と必死になって闘っているのですから、生体側のその仕事を手伝ってやるためにスコープで温めたりすることが効果的」と述べています。そして、「がんの切除手術で周囲のリンパ組織を残らず切除してしまうのは間違いです。世界中の外科医たちが、時間をかけてリンパ節を切除してきたことは徒労であったということが明らかになるのは、そう遠いことではないでしょう」という。

リンパ節未切除群の生存率が高いことが証明された

 『月刊・むすぶ』(501号)で、林昭医師は、非特異的免疫療法であるBCGCWSによる免疫療法の効果が、リンパ節を切除した群と切除しなかった群とを比較して差があるかどうかを統計的に証明しています(卵巣がん)。切除しなかった例というのは、手術不能であったということです。それによれば、鮮やかに、リンパ節を切除しなかった患者さんたちのほうが、生存率が高いと言う結果が得られていると述べています。

免疫療法を支える条件

 免疫療法を成功させるための条件の第一は、アジュバント効果による樹状細胞の活性化です。BCGCWSはそれ自体がアジュバントですから、BCGCWSのみによる免疫療法はアジュバント単独療法ということになる。樹状細胞は自分と相容れない敵である菌やウイルスを認識し攻撃するために発達している。したがって、「がんの免疫療法」と言っても、強力な病原体である結核菌由来のアジュバントを使って樹状細胞を刺激し活性化させ、騙している事になります。がんのペプチドを抗原提示のために使うペプチドワクチンの場合にも、BCGCWSなどの有効なアジュバントと組み合わせて行うことが重要となります。

リンパ節で行われている仕事とは

 樹状細胞による抗原ペプチド(蛋白質の断片)の提示は、攻撃して欲しいがん細胞の顔をTリンパ球(TD8)に教えることを意味します(CD4CD8Tリンパ球の種類)。BCGCWSの単独療法の場合はこの抗原ペプチドの呈示はしないが、リンパ節にひっかかっているがん細胞は、生体の免疫細胞、とくにNK細胞やNKT細胞(胸腺外分化T細胞)などの自然免疫により攻撃され、ペプチド化しているものが存在しているはずと橋本氏はいう。これをリンパ節に移動した活性化されている樹状細胞が認識して、その情報をリンパ球に教えるという仕事をリンパ節において行っている。BCGCWSなどの有効なアジュバントを上腕の皮内に注射すると、そこにいた樹状細胞は活性化され成熟し、近傍の腋の下などのリンパ節に移動する性質があるからです。

 以上を総合的に考慮すると、がんの手術でリンパ節郭清術を行うのは、免疫細胞の仕事場を破壊することであることがお分かり頂けたと思います。

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