WHOの2つの文献が示すバイオ施設の立地の国際基準について

長島 功


はじめに
 この報告で取り上げるWHOの2つの文献、@"Laboratory biosafety manual"(1993)(『病原体実験室安全対策必携』と訳されます)及びA"Safety in health-care laboratories"(1997)(『保健関係実験施設の安全性』と訳されます)は、もともと、予研裁判の被告感染研が裁判において、感染研の庁舎がWHOの国際基準に従っていることを示すために書証として提出されたものです。しかし、感染研にとっては皮肉なことに、これらの文献を正確に理解すれば、感染研の現在の庁舎は、これらの文献に示されたWHOの国際基準に違反していることが明らかになりました。

 感染研は、はじめは"Laboratory biosafety manual"の第1版 (1983)の邦訳『実験室バイオセーフティー指針』を書証として提出しました。原告は、予研(感染研)が自ら書証として提出したこの指針にさえ違反していると主張してきました。さらに、1993年に出版された第2版は、その序文によれば、初版以来の10年間の様々な経験、知見、発展を考慮して改訂されたとのことです。「これらの経験、知見、発展には、抗生物質、変異原物質、遺伝子組み換え等によって病原体が大いに変異し、従来、致死性でなかった病原体が致死性のものに変わり、危険度1、2レベルの病原体が危険度3レベルに変化する等の事実も含まれていると思われます」(芝田進午「WHO指針(1993年改訂版)の新基準の要点」、芝田進午「予研はなぜ裁かれるか」『技術と人間』1995年6月号)。その後被告(感染研)は、1996年にこの改訂第2版の邦訳を出版しました。しかしながら、この邦訳は、感染研の庁舎が明らかに違反していると思われる基準を述べた箇所は意図的に誤訳(歪曲訳)したものです。これについては報告の中で明らかにします。原告は、1995年2月にすでに改訂第2版の要点を日本語で書証として提出しました。 この中で原告は、予研の庁舎が、いくつもこの改訂版で示された基準に違反していること、とりわけ、この文献の最後に掲げられた「安全チェックリスト」の大部分に違反している事実を明らかにしました。原告の指摘により, 感染研はそのうちいくつかの安全項目について改善せざるを得ませんでした。

 1997年に出版された"Safety in health-care laboratories"(1997)(『保健関係実験施設の安全性』)は、"Laboratory biosafety manual" (『病原体実験室安全対策必携』)が主として実験室の内部の安全対策を示したのに対して、主に微生物実験室を含む保健関係実験施設の立地条件を扱ったものであります。WHOの出版した文献の中で laboratory に関するものは、全部で19あります。被告(感染研)は、自ら感染研の庁舎がWHOの国際基準に合致しているものとしてこの文献を書証として提出したのであります。しかし、感染研にとっては皮肉なことに、この本の第3章 "Laboratory premise"(「実験施設の敷地」)の実験施設の立地に関して述べた箇所は、現在の感染研の庁舎の立地がふさわしくないことを示しているのであります。この点についても報告の中で詳しく示すつもりです。

 1."Laboratory biosafety manual"(1993)と感染研庁舎
 「同指針の課題は、その題の通り『病原体実験室内部でも微生物実験の安全のための指針』であって、その限りで、極めて有益なものである。」しかし、「同指針の課題はその限界でもある。したがって、同指針は、病原体実験施設を環境、立地条件の重大性にほとんど関心を示していない。」(芝田進午「バイオ時代の環境保全と法的規制の課題」、『広島法学』第17巻1号、1993年 7月 )
 以上のようにこの指針は限界はあるが、病原体実験のハード面とソフト面の最低基準を示している点で意義があります。また、病原体の危険度の分類を示し、それに対応した実験室・施設のレベルを示しています。

1.1 病原体の危険度の分類と実験室・施設のレベル
@表1.危険度による病原微生物の分類
 危険群1(個体および地域社会の集団に対する危険度が皆無か極めて低い)      ヒトや動物に疾患をもたらす可能性のない微生物
 危険群2(個体に対する中程度の危険度、地域社会の集団に対する低い危険度) 
       ヒトにあるいは動物に病原性を有するが、実験室職員、地域社会の集団、家畜、環境等に対し重大な災害をもたらさない病原体。実験室内で曝露されると、重篤な感染を引き起こす可能性があるが、有効な治療法や予防法があり、感染の広がる可能性は限られている。
 危険群3(個体に対する高い危険度、地域社会の集団に対する低い危険度)
     通常、ヒトあるいは動物に重篤な疾病をひき起こすが、他の個体へ感染が広がる可能性は通常はない。
 危険群4(個体および地域社会の集団に対する危険度が高い)
     通常、ヒトまたは動物に重篤な疾病をひき起こし、罹患者より他の個体への感染が、直接または間接的に起こりやすい病原体である。有効な治療法や予防法は通常はない。

 (表1)に関連して重要なことは、各国は、微生物の伝播様式と感受性宿主域(これらは、その地域の免疫レベル、宿主の人口密度と移動度、媒介動物の存否、環境衛生レベル等の影響を受ける)に基づいて、国内の微生物に関する危険度分類を作成しなければならないと付記されていることである。したがってこの点を考慮すると、「同指針が国としての地理的な条件とともに、病原体が扱われる施設の周辺の地理的条件をも考慮すべきことを指摘していると理解すべきことは、自明である。」(芝田進午、前掲論文)このことは、同書の3ページで「各国で、分類基準を詳細に策定するにあたっては、微生物が取り扱われる地理的区域に広く存在する諸条件をも考慮する必要がある」と書かれていることからも明らかである。(強調は筆者によるもの)

 ところが,ここで注意すべき点としては、感染研の国際査察を行ったコリンズ,ケネディ両博士の話では、「ヨーロッパならば、地域社会に被害をもたらす危険度『3』のウィルスとして扱われる十四種類を、感染研が危険度の低い『2』に分類している」ことであり、両博士はこれに疑問を呈している。(『別冊宝島495−生物災害の悪夢』p.60 )また、感染研の匿名の研究者の話では、「昔のいわゆる法定伝染病に入っている病原体のほとんどは、今やP2扱いですからね。それでも非常に危険な病原体には変わりがない」(『別冊宝島495−生物災害の悪夢』p.70 )という。このように全く国や周辺地域の地理的条件を無視して病原体実験を強行することは、周辺住民にとってはゆゆしきことである。このように周囲の住民への影響を全く考えない研究所は即刻移転すべきである。

さらに、(表1)の分類に応じて病原微生物は次のレベルの実験室・施設で取り扱われなければならない。

    感染研には、P2実験室は数多くありますが、P2実験室のバイオセーフティレベルは一般病院の検査室と同じことです。ここで思い出されるのは、東大医学部が数十年間発癌物質のホルマリン液をそのまま下水に流していたことです。これはどういう意味なのでしょうか。考えてみると、東大医学部の医師たちは、ホルマリン液が発癌物質であることは当然知っているわけで、それを公共下水にそのまま垂れ流しするということは、自分の身の安全や研究で頭の中がいっぱいで、もしかするとホルマリン液(ホルムアルデヒド)が住民に癌を発生させることなど全く彼らの脳裏にないということです。こうした事情は国立感染症研究所でも同じです。前述のある感染研究所の研究員の話によると、国際査察の時に、WHOの基準に目を洗う装置を置かなければならないという規則がありますが、感染研側は苦肉の策として生理食塩水が入ったボトルを流しの隣に用意しました。これを見てリッチモンドという感染研究所側の査察官が「これは目を洗うためのものですか」と尋ねました。それを見てその研究員は、ハザード対策の緊急シャワーと似たようなものではないかと考えました。彼の話では、「もっと大きな問題は、目や顔についた病原体をそうやって洗い流した場合、病原体をはそのまま流れ出てしまうでしょう。その後、どうするんだということです。」流しの水はどこへ行くのかという問いに答えて彼は、「P2の場合は、ダイレクトに下水に行きます。うちの研究所には、地下に消毒用のタンクがあるんですが、それはP3用のものなんですよ。しかしP2でも、レジオネラとか溶血連鎖球菌とか、結構危険な病原体を扱いますからね。全部を処理するんだったら、巨大なタンクを使わなくちゃだめです。ものすごい量の水が流れているんですから。流しで目を洗って病原体を流せば本人はいいんでしょうが、研究所の外の人は…病原体が外に出ちゃうわけですからね。そこまで考えてやっているのか…」(『別冊宝島495−生物災害の悪夢』宝島社、p。70)つまり、これは病原体の漏洩事故の原因になりかねないのです。

1.2.安全対策の基本
 まず第一にこの文献の7ページで次のような指摘がなされていることに留意しなければならない。「実験室における安全確保において、基本をなすものは優れた微生物学的技術であり、安全設備はこれを補強することができるだけでこれに替わることはできないことをまず強調しておかなければならない。」つまり、ハード面でどんなに優れた安全装置を使用してもそれを使用する人間の側での操作ミスが起きれば、どんなに危険な感染事故が発生するやもしれないということです。この点で予想される操作ミスは「排気のためのフィルターの点検ミス、P3実験室の整備ミス、ホルマリン等、有害化学物質・発癌物質等の取り扱いミス、高圧滅菌器の操作ミス、排水・感染廃棄物等の滅菌ミス、ゴキブリ、ダニ等の捕捉ミス、職員自身の滅菌ミスと病原体の無意識的持ち出しミス、不顕性の感染事故等」(芝田進午、「WHO指針(1993年改訂版)の新基準の要点」、芝田進午「予研はなぜ裁かれるか」『技術と人間』1995年6月号))であります。 したがって、本書は実験器具を扱う優れた微生物学的技術とともに第5部において「安全管理のための組織体制と安全運行管理講習」の項に多くの紙面を割いているわけです。 第15章の冒頭では「実験室を安全に保つことはすべての作業者の責任であり、各人は自分自身に対してのみならず、ともに研究する者の完全に責任があるということが」強調されています。この点では例えば、10ページにおいて「21.すべての実験担当者及び他の危険のある職員について、基準となる血清のサンプルを採取し、保存しなければならない。扱う病原体や施設の機能に応じて、定期的に追加の血清標本を採取しなければならない」と述べられています。ところが前掲の芝田氏の論文によると「予研の『病原体安全管理規定』で規定されているこの条項でさえ、予研は全所的には、私たちが裁判で追及するまで10年間も怠けてきた。予研が希望する職員から血清を採取したのは、やっと1991年になってからにすぎない」ということです(芝田進午「バイオ時代の環境保全と法的規制の課題」、『広島法学』第17巻1号、1993年 7月 )。この一例からも予研の安全管理面の水準がいかに低いものであるかは明らかです。

1.3 P3実験室の環境・立地条件について
 もうひとつ重要な点として、本書はP3実験室の立地条件について述べているものと思われる文章が書かれていることです。それは原文では、20ページから21ページにかけての次のような英文です。

11.Exhaust air from the laboratory (other than from biological safety cabinets) must be discharged directly to the outside of the building so that it is dispersed away from occupied buildings and air intakes.(和訳:(生物学的安全キャビネットからの排気以外の)実験室からの排気は直接建物の外部に排出し、人のいる建物と空気取入れ口から遠く離れるように拡散しなければならない。)

 国立感染症研究所の翻訳した『実験室バイオセーフティ指針』では、次のように訳されています。「(安全キャビネット以外からの)実験室からの排気は、直接建物外部に排出し、他の建物、または空気取入れ口付近に流れないように、離れたところで拡散するようにすること。」(pp. 20-21)(ゴシックの訳語に注意)ここには問題点が2つあります。

第1の問題点はP3実験室においては排気がへパフィルターを通して強制的に実験室の外部に排出されるということです。したがって、実験者はエアロゾルからの感染からは守られるが、エアロゾルは実験室の外部に排出されるので、そのエアロゾルは大気中に排出されて、周辺住民の住宅で入ってくるかもしれないということです。こうした自覚があれば occupied building を「他の建物」などと訳すわけがないわけです。これは「人の住んでいる建物」という意味です。感染研にはP3施設は動物実験施設を含めて全部で8室あります。一つの研究所にP3施設がこれだけある実験施設は世界でただここ一箇所だけです。この点から、感染研の庁舎が周辺住民にとっていかに危険な施設かがわかるでしょう。

第2の問題点は、排気口に取り付けられているへパフィルターの病原菌の捕捉率です。WHOの基準では、それは99.997%ですが、日本の基準では99.97%です。すなわち日本の基準はWHOの基準より1ケタ小さいのです。つまり、WHOの国際基準では、十万個の微粒子をフィルターに通した場合、3個以上を通してはならないが,日本の基準では一万個の微粒子うち3個以上を通してはならないということです。感染研はフィルターを二重に重ねるから高くなるといっていますが、同じの捕捉率のフィルターを通ったものは同じ捕捉率のフィルターも通るはずです。ですから、感染症研究所の周辺住民は常に研究所から排出される病原菌のエアロゾルを含んだ排気ガスに吸入させられされて、何らかの感染症にかかる危険にさらされているのであります。これが、へパフィルターを用いた封じ込め実験室が排気の強制排出装置といわれる所以です。つまり、この実験室は内部の実験者を感染から免れさせるが, 周辺住民のことは全く無視して考案されたものなのです。

2."Safety in health-care laboratories"と感染研究所の立地
2.1. 本書は、WHOが保健関係の実験室・施設の立地についてはじめて明確に示したものです。その箇所は第3章の Laboratory premise と題された16ページの Location of the laboratory という表題の部分です。予研裁判ではこの部分の解釈が真っ二つに分かれていて、この部分の解釈がこの裁判の焦点になっております。したがって、ここではこの部分の原告の解釈を示し、もって感染症研究所の立地がWHOの基準に反していることを示します。

"Safety in health-care laboratories"『保健関係実験施設の安全性』

P.16の原文

Location of the laboratory

The relative location of the laboratory and its ancillary areas with respect to each other and to the building as a whole must be considered.
―laboratories that have a common function or which support services or equipment should be grouped together to avoid duplication of facilities and reduce carriage of materials through the buildings;
―those that require regular deliveries of bulky goods should be located close to the goods receiving area or to a goods loft;
―wherever possible laboratories should be sited away from patient, residential and public areas, although patients may have to attend and provide or deliver specimens;
―laboratories should not be so located in a building that they become thoroughfares or access routes to other areas;
―high-level containment or high-risk laboratories should be located away from patient or public areas and from heavy-used circulation routs;
―services should be located so that maintenance may be carried out with the minimum of disruption to laboratory work;
―laboratories where there is a greater fire risk associated with the use of flammable materials, e.g. histopathology, should be located away from patient or public access areas and flammable material storage facilities to minimize the effect and spread of fire.

(訳文)

ラボラトリーの位置

ラボラトリーとそれに付随する地域の、それら相互と建物全体から見た相対的な位置が考慮されなければならない。
ー共通の機能を持つかまたは修理用の設備や実験用の設備が同じであるラボラトリーは施設の重複を避け、建物の中での試料の運搬を減らすために建物の一つの区域にまとめて設置しなければならない。
ー大きな荷物の定期的な配達を必要とするラボラトリーは荷物を受け取る区域または荷物専用のエレベーターの近くに位置していなければならない。
ー患者が訪れて標本を提供するか届けなければならない場合があるとしても、ラボラトリーはできる限り患者、住民、公衆のいる地域から離れて立地しなければならない。
ーラボラトリーは建物の内部でそれが他の区域への通り道や通路になるような位置に設置してはならない。
ー高度封じ込め用のラボラトリーかまたは危険度の高いラボラトリーは患者や公衆のいる地域と往来の激しい道路とから離れて立地しなければならない。
ー修理用の設備は保守点検作業が実験作業に最小限の邪魔にしかならないように行われるような位置に設置されていなければならない。
ー可燃物の使用とむすびついて火災の危険の大きな実験施設、たとえば組織病理学の実験施設は、火災の影響と類焼を最低にするために患者や公衆が近くにいる地域ならびに可燃物保管施設から離れて立地されなければならない。

(厚生省の、すなわち、感染研の解釈)
 また、同文書の16ページにおいては、高度封じ込め実験検査室あるいは感染リスクの高い実験検査室は、患者のいる場所や公共部分あるいは人の往き来の多い通路から離れて設置すべきである旨が記載されているが、これは、病院等の施設内においてどこに実験検査室を配置するかを論じているものであり、住宅地及び公衆の集まる地域に立地することの是非を論じているものではないと承知している。(ゴシック体の部分に注意)

この解釈に対する反論
 "Safety in health-care laboratories"について
1.この文書は政府の回答書が述べるように、たしかにWHOの公式文書ではなく、そのなかで述べられている見解については著者が責任を持つものであるとこの文書の表紙裏に書かれている。しかし、著者の一人であるコリンズ氏の言によれば、この文書はWHOの技術専門部会のメンバーによって書かれたものであり, 明らかにWHOの正式な文書であるという。日本がWHOの加盟国であり、しかもその議長国であるならば、その文書が公式のものではないからそれに従う必要はないというようなWHOを無視する消極的な姿勢に終始するのではなく、その出版物に示された見解を尊重することが加盟国としての模範をしめすことになると考える。日本はWHOの加盟国として範を示すことが世界の第2の大国のとるべき姿勢として各国から望まれている。
 「序文」では最後に「地方や国の規則や指針が存在する場合には、それらもまた参考にすべきであり,またそれらがこの文書に優先するであろう。」と述べられている。しかし、日本には、病原微生物を扱う実験室あるいは実験施設の立地に関する規則も指針も存在しない。そのような規則や指針があれば、それらはWHOのこの文書に優先するが、存在しないのであれば、この文書を参考にし、わが国独自の国情に適した規則または指針を作成し、それまではWHOのこの文書に示された見解を尊重することが求められる。 2.この文書の16ページの「ラボラトリーの位置」と題された記述の理解の仕方についてわれわれの見解を述べる。まず、政府回答は、16ページの12行目に示された項目について「高度封じ込め実験検査室あるいは感染リスクの高い実験検査室は、患者のいる場所や公共部分あるいは人の行き来の多い通路から離れて設置すべきである旨」と解釈している。
 しかし、まず第一に、この英文に含まれている"residential areas"をなぜ省いて解釈するのか。それは、この英語が「住宅地」を示すことは自明なので、これを解釈に含めれば、政府の解釈全体が崩れるからである。参考までに示しておくと、英語を外国語として学ぶ人のための英英辞書として最高の権威のある"Oxford advanced learner's dictionary(OALD)"の residential の第一の項目に"a residential area, suburb, district, etc, ie one having no offices, factories, etc"という例文が載っている。この英文で area は、suburb(郊外)、district (地区)と並置されていることからも、また、offices (会社)、factories (工場)がない"a residential area, suburb, district"と言い換えられていることからも「地域」の意味であることは明らかであり、したがって、a residential area が「住宅地」を意味することも明らかである。
 第二に、政府回答は should be sited は「設置すべき」と解釈し、この英文は「病院等の施設内においてどこに実験検査室を配置するかを論じているもの」と承知していると述べているが,前掲のOALDによれば site は site a buiding etc. のように用いて、建物全体の地理的な位置を示すために用いられるのであり,建物内のある部屋の位置を示すためには用いない。そのような配置を示すためには place または locate を用いる。
 したがって、以上の点から問題の英文が病院内の実験検査室の設置場所について述べたものと解釈するのは無理でありかつ歪曲であり,むしろ建物全体(この場合には実験施設)の地理的な位置について述べたものであり、かつまたそれが住宅地から離れて立地すべきであると述べていることは明らかである。

第3章についてのWHOの解説
Chapter three , on laboratory premises, covers the many factors that need to be considered when siting and designing laboratory facilities for maximum safety. (ラボラトリーの敷地に関する第3章は、実験施設を最大限安全に立地・設計する際に留意する必要がある多くの要因を扱っている。ゴシック体の部分に注意) ―WHOのホームページよりー

2.2. 災害対策の要綱の作成に含まれるべき項目には、事前に環境影響評価をしなければ分からない項目がふくまれている。

 原文では
―identification of at risk personnel and populations;
この箇所を感染研は、何のことを行っているのか分からないように、「危険に曝されている職員と集団の同定」と訳しています。
第1に「同定する」とは「生物学の専門用語」で、ある生物の「種・属を決定すること」です。つまり、見つけた生物が「〜種・〜属・〜科」の何という生物なのかを特定することを言うのです。感染研は、このような生物学者しか使わず, したがって、生物学者しか分からない専門用語を用いて、この部分の意味を分からなくさせているのです。 第2に population を「集団」と訳しています。しかし、これでは牛や羊の集団なのか人の集団なのか分かりません。確かに、その前に「職員」と書かれているので、まさか牛や羊の集団だと理解する人はいないでしょう。しかし、 読む人を非常に惑わせる訳文であることにはかわりはありません。
では、identification は何と訳せばよいのでしょうか。ここでは、災害対策の条項について述べているので、「特定すること」で十分です。また、 populations は何と訳せば良いのでしょうか。 population は冠詞の a が手前に置かれたり、複数形をあらわす s が語の後に置かれるときには、「ある地域の人口」、すなわち「住民」を表します。ですから、原文は「職員や住民を特定すること」という意味です。しかい、こう訳しても「職員を特定すること」や「住民を特定すること」が何のことを意味するのか分からなくては、この箇所は何を言っているのか分かりません。 「職員を特定すること」とは、職員と一口に言ってもどこの部署で働いている人なのか分かりません。ここでは、「職員を特定すること」は、「どの部署の何処の課で働いているのかということで、職員の範囲を確定すること」を意味するのです。また、「住民を特定すること」と言っても、住民はいろんな地域に住んでいますから、「住民を特定すること」とは、「どこの地域の住民かを決めること」、すなわち「住民の範囲を確定すること」なのです。ですから、この箇所は,「危険に曝される職員と住民の範囲を確定すること」と訳せばよいのです。 このように理解すると、同書で「災害対策要綱の作成に当たっては、危険に曝される職員と住民の範囲を確定すること」とは,例えば感染研で火災が発生したり、阪神大地震のような大地震が起きたりしたときに、どこで働いている職員とどの地域の住民が危険に曝されるかをあらかじめ調べておかなければいけないということなのです。ところが, こういう調査は、「環境アセスメント」と言って、世界の大部分の国では、ある施設を建設する前にそれを建設すると周囲の環境にどういう影響が出るかを調べた「環境影響評価書」をその施設の建設業者と事業者が環境庁などの公的機関に提出し、その後その報告書に基づいて周辺住民との相談や住民の住む自治体の代表機関との協議を重ね、その結果その施設が建設された場合の環境への影響は何らかの技術的措置や法に従った対策をすれば緩和されることが証明されれば、建設は認められるが、そうでなければその施設の建設を認めないという「環境影響評価法」があるのです。 したがって、同書のこの部分の規定は、このような事前の環境アセスメントがバイオ施設の建設の場合にも必要だと言っているのと同じことなのです。 このように理解すると、同書は,すでに「対策要綱の作成」をバイオ施設に課していることで,事実上「環境アセスメント」の必要性を提言していると考えられるのです。

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